テクノロジー

苦境に立たされたインテル “出戻り”CEOに託す未来=服部毅

    インテルのCEOに就任するパット・ゲルシンガー氏 (Bloomberg)
    インテルのCEOに就任するパット・ゲルシンガー氏 (Bloomberg)

     米半導体大手のインテルは1月13日、臨時取締役会を開催し、CEO(最高経営責任者)交代を突然発表した。財務出身の現CEOであるボブ・スワン氏が異例の2年で退任し、12年前にインテルを退社した初代CTO(最高技術責任者)のパット・ゲルシンガー氏が2月15日付で新CEOに就任する「出戻り」人事となる。インテル取締役会のオマール・イシュラク会長は今回のトップ交代について、「インテルを変革すべき重要な時期に、ゲルシンガー氏の技術に関する専門知識を活用するべきであるとの結論に達した」と述べている。

     インテルが1月21日に発表した2020年12月期決算は、売上高が前期比8%増の779億ドルと、5年連続で過去最高を更新した。しかし、最終(当期)利益は1%下落しており、投資家の反応は鈍い。米クアルコム、米エヌビディア、米アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)、台湾メディアテックといったファブレス(製造設備を持たず設計のみを行う半導体メーカー)の売上高が前期比3〜5割伸びるのと比べると見劣りは否めない。

    「存在感ほとんどない」

    「モノ言う株主」として知られる米アクティビストヘッジファンド「サードポイント」のダニエル・ローブCEOが昨年末、イシュラク会長に宛てた書簡に、今日のインテルの問題点がすべて凝縮されている。書簡ではインテルに対し、製造と設計を両方手掛けるIDM(垂直統合デバイスメーカー)モデルが本当に適切か否か、ファブレスへの転換も含めて事業を抜本的に見直し、速やかに行動に移すように求めた。

     書簡ではまた、「製造プロセス微細化の優位性をTSMC(台湾積体電路製造)に奪われたほか、主力のパソコンやデータセンター向けCPU(中央演算処理装置)ではAMDにシェアを奪われており、かつAI(人工知能)分野ではエヌビディアが支配的な地位を確保しつつあり、インテルの存在感はほとんどない」と辛辣(しんらつ)に指摘する。

     さらに、アップルやマイクロソフト、アマゾンなどの大口顧客がもはやインテルに頼らずに、半導体を自社開発し、TSMCなどのファウンドリー(半導体製造受託企業)に製造委託していることにも言及したうえで、「インテルにとっての喫緊の課題が、トップの現状維持方針で士気を失った多くの有能な半導体技術者が離職していることに歯止めをかけること」であるとし、新たな改善策を早急に実行するよう要求している。

     インテルは、マーケティングや財務出身のトップが相次ぎ、伝統の技術革新を置き去りにする会社になってしまった。たび重なる微細化プロセス開発の遅れで先端CPUの発売延期を繰り返した結果、17年第1四半期(1~3月)まで8割を超えていたパソコンやデータセンター向けCPUの市場シェアは、20年第4四半期(10~12月)には6割強まで落ち込んでいる。インテル取締役会は、半導体技術を熟知し技術革新を主導できる人物をCEOに任命するしか現状を突破できないと判断したのだろう。

     ゲルシンガー氏は、1979年に18歳でインテルにテクニシャン(エンジニアの補助職)として入社。勤務しながら地元の大学を経て米スタンフォード大学大学院電気工学修士課程を修了した努力家だ。入社後、30年間はCPU設計技術一筋で、十数種類のCPU設計を主導。00年に初代CTOに任命され、シニアバイスプレジデントにまで上り詰めた。

     しかし、文系出身のポール・オッテリーニCEO(当時)のマーケット重視の経営に息苦しさを感じ、自分の成長を見通せなくなったとして09年にインテルを依願退職。米EMC(現デルEMC)へ転職した。そのころからインテルの技術的凋落(ちょうらく)が始まったと見る向きが多い。ゲルシンガー氏は12年以降、EMC傘下のクラウドコンピューティング向け仮想ソフトウエアサプライヤーであるVMウエアのCEOを務め、同社の売上高を就任時から約3倍に増やした。

    「最終判断」先送り

     ゲルシンガー氏はインテルCEOの就任に際し、「ロバート・ノイス氏(インテル共同創業者)、ゴードン・ムーア氏(同)、アンドルー・グローブ氏(インテル3番目の社員)らの歴代トップの足元で学んだので、このリーダーシップの伝統に戻ることは私の特権と名誉である」と述べ、我こそが技術革新を重視するインテルの正統派人材であることを誇らしげに語った。ゲルシンガー氏は、さっそくインテルを去っていった大物設計技術者の呼び戻しに精を出している。しかしCPUの設計から製造までは数年を要するため、すぐに劣勢を覆すわけにはいかないだろう。

     スワンCEOは、長期歩留まり低迷で製造できずにいる回路線幅7ナノ(ナノは10億分の1)メートルのCPUについて、外部に製造委託するか社内製造するかの「最終判断」を1月21日の20年第4四半期決算発表の場で公表すると繰り返し予告してきた。しかし、決算発表当日に 「判断は新CEOに委ねる」として、2月15日以降に先送りした。

     23年に商品化予定の7ナノメートルCPUの大半は自社で製造し、一部の製品は外部に製造委託することで新旧CEOは基本的に合意しているようだが、まだ内部調査や外部と調整しなければならないことがあるようだ。投資家は、この判断先送りを評価しておらず、インテル株価は1月21日終値の62・46ドルから下落し、1月下旬は55ドル前後での推移を続けている。

     一方、ライバルのAMDは、インテルが先端プロセスでもたつくのを尻目に、TSMCの先端プロセスを活用した高性能CPUでインテルのシェアを奪いにかかっている。同じくTSMCの先端プロセスを利用するGPU(高速画像処理回路)最大手のエヌビディアも英アームを買収してCPU分野への参入を狙っている。TSMCの微細化は今年、3ナノメートルの試作を開始するなど計画通りに進んでおり、インテルとの差はさらに広がっている。

     強力なライバルに囲まれてインテルのかじ取りはさらに難しくなってきている。古巣に戻ってきた新CEOの手腕が問われているが、早急に劣勢を挽回することは至難の業だろう。

    (服部毅、服部コンサルティング・インターナショナル代表)

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