経済・企業

東証の市場再編 600社が「プライム」から脱落 TOPIXからも除外で株価下落=和島英樹

    企業に改革を迫る東証(Bloomberg)
    企業に改革を迫る東証(Bloomberg)

    「東証1部からくら替えされるプライム市場に残れるのか──。東京証券取引所が昨年12月に発表した「新市場区分の再編」が、東証1部上場企業に緊張感を与えている。仮に脱落すれば、ステータスを失ううえに、TOPIX(東証株価指数)からも除外されて、株価が下落する可能性があるためだ。東証は、2022年4月に新たな区分に市場を再編する予定。

     また、プライムは株主数の基準については緩和(上場時の株主2200人、以降2000人から800人に減少)されており、これが株主優待制度へ影響を与えるとの見方もある。

    持ち合い株は「固定株」

     東証は昨年12月、東証1部に代わる最上位市場を「プライム」と改称した上で、企業の流通株式時価総額が100億円以上などとする上場基準を設定した。これにより、現在の東証1部上場企業約2200社のうち、約600社が新基準を達成できていないとみられる。

     流通株式時価総額とは、親会社の保有分などを除き、実際にマーケットで流通している株式の時価総額のこと。1部上場企業で、プライム基準未達の企業でも当分の間は残留できるが、流通株式時価総額を引き上げる方策が求められる。

     東証は昨年12月に、現在四つある市場を三つに再編する改革案の概要を発表した。具体的には、現状の「東証1部」「東証2部」「ジャスダック」「マザーズ」を、グローバル企業向けの「プライム」、中堅企業向けの「スタンダード」、新興企業向けの「グロース」に再編する(図)。

     プライムは、海外の機関投資家などが投資対象とするような大企業を想定している。プライムに選ばれるためには、時価総額による基準と、新たな企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)の適用が必要になる。企業統治指針は、金融庁と東証が今春に改定を予定している。欧米企業と遜色のない基準とすることで、外国人投資家が投資しやすくなる市場を目指す。

     また、現在のTOPIXの名称は引き継ぐが、指数採用銘柄は流通株式時価総額100億円以上の企業に限定される。しかも、流通株式時価総額の定義が厳しくなる。

     現在の流通株は、大株主上位10位以内に該当しない「持ち合い株式(政策保有株)」は浮動株(流通株)とみなされていたが、新たな流通株の定義では大株主の11位以下であっても、持ち合い株式は固定株(非流通株)としてカウントされる。

     TOPIX算出ルールの見直しの概要は以下の通り。まず21年7月に、同6月末時点で流通株式時価総額が100億円以上あるかどうかを判断する第1回目の判定を行う。次に22年10月に、第1回判定で流通株式時価総額100億円未満の銘柄について翌期の改善状況を確認する第2回判定を実施する。この時に流通株式時価総額が100億円未満だった場合、「段階的ウエート低減銘柄」として指定。22年10月以降、10段階に分けてTOPIX組み入れ比率の低減を開始する。

     さらに23年10月に、段階的ウエート低減銘柄について、(1)第2回判定の翌期の流通株式時価総額が100億円以上か、および(2)年間売買代金回転率0・2回転以上か、について確認する再評価を行う。(1)と(2)の両方を満たす銘柄は組み入れ比率を低減前に回復し、(1)のみ満たす銘柄は組み入れ比率低減を停止。(1)を満たさない銘柄は低減を継続する。流通株式時価総額が100億円に満たない企業は、25年にはTOPIXから完全に除外されることになる。

    1部の割高を解消

     これまでは、東証1部上場企業であれば、必ずTOPIXに採用されていた。TOPIXをベンチマーク(投資基準)とする海外機関投資家が多く、自動的に買い付けられることで、株価が適正価格よりも割高になっているケースも目立つ。

    「プライム基準」に満たない現東証1部上場の約600社は、新たな基準を満たせなければ「スタンダード」に“格下げ”になる。格下げは、事実上TOPIXからの除外も意味し、株価の下方圧力が強まる。TOPIXの値動きに連動するように設計された投資信託や、TOPIX先物との裁定取引のための買いポジションからも外れることになるからだ。

     市場では、かつて市場再編がTOPIXの連続性をゆがめるとの見方があったが、現在では「100億円以上という流通株式時価総額基準なら影響はほとんどない」(大手証券)との声が一般的になっている。

    急ぐ持ち合い解消

     人材関連のリクルートホールディングス(HD)は19年に続き、20年12月にも政策保有株を中心とする株式の売り出しを実施している。昨年は、電通グループや凸版印刷などが保有するリクルート株を売り出した。リクルート株式を保有する大株主の複数の企業から売却の意向があったとされる。

     また、20年11月にはトヨタ自動車がトヨタ紡織株式の一部を売却し、保有割合は4ポイント低下し35%となった。トヨタ紡が、流通株式時価総額基準をクリアするために売却を依頼したとされる。保有株の売却は一時的には株価の下落要因だが、流通株式の確保の方が優先課題となっている可能性が高い。持ち合い株式の解消や縮小の動きが、今年は加速する公算が大きい。

     現在のコーポレートガバナンス・コードは、独立社外取締役を少なくとも2人以上選任すべきとしている。現在、東証1部企業では6割弱の企業で独立社外取締役を全役員の3分の1以上選任している状況。これを基準にプライム市場でも独立社外取締役3分の1以上を求める方針を示している。体力のある企業はクリアできても、中堅企業ではコスト面も含めて基準を満たすのに苦戦する企業も出そう。

     市場関係者の調べで、1月15日時点で単純時価総額が100億円未満の東証1部上場企業は285社。流通株式を考慮すれば、このレベルは「スタンダード」行きが確定。同100億円以上、150億円未満では174社。

     現在の東証1部上場企業にとって「プライム」に残れるかどうかは、極めて重要だ。取引先から見ての信用度、人材募集の効果では決定的な差になりかねない。何より、これまでの東証1部上場企業が「スタンダード」行きなら、格落ちの印象を与える可能性が大きい。前述したようにTOPIXから外れ株価も打撃になり得る。ただ、流通株式時価総額基準や、コーポレートガバナンス・コードをクリアするのは簡単ではない。

    株主優待が減少

     当落線上の企業は、時価総額を上げるための中期経営計画の公表やIR(投資家向け広報)の積極推進などを行うことが想定される。また、コーポレートガバナンスの体制作りも急ぐことになるだろう。こうした動きは、株式市場にとっても前向きな材料となりそうだ。

     なお、東証1部以外でプライム市場の要件を満たしている企業に、半導体製造装置関連のフェローテックHD(ジャスダック)、半導体フォトレジスト用感光材料などの東洋合成工業(同)、フリーマーケットアプリのメルカリ(マザーズ)などがあるという。

     もう一つ、市場の再編で「株主優待」が大幅に減少するとの見方がある。現在の東証1部の必要株主数は上場時に2200人以上、以降は2000人以上が必要になる。プライムでは800人以上が基準になる見通し(表)。企業は東証1部の株主数を維持するために、現金相当の「クオカード」などを株主優待として提供しているケースが少なくない。新基準では株主数のハードルが大幅に下がるため、株主作りのための優待の必要性は後退する。

     ある東証1部上場企業の幹部は「クオカードへの社名などの印刷代、発送費用を考慮するとコストがかかりすぎる」と指摘する。株主優待制度は海外では稀有(けう)で、日本独特の制度ともいえる。一方、株主優待が個人投資家の大きな選別基準ともなっている。今後の株主優待の動向にも関心が集まりそうだ。

    (和島英樹・経済ジャーナリスト)

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