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経済・企業

東証システム障害、全銘柄売買停止3度目の深刻度

システム障害による終日売買停止から一夜明け、取引が再開された東京証券取引所=東京都中央区で2020年10月2日午前9時9分、宮武祐希撮影
システム障害による終日売買停止から一夜明け、取引が再開された東京証券取引所=東京都中央区で2020年10月2日午前9時9分、宮武祐希撮影

 10月1日、東京証券取引所に上場する全銘柄の売買が終日停止となった。全ての銘柄の売買が終日なされなかったのは、1999年に取引がシステム化されて以降で、初めてのこととなった。1日の売買代金で4兆円弱の市場が丸1日停止する異常事態となったが、正常再開となった翌日以降の東証は冷静なスタートとなり、関係者は安どした。しかし、繰り返されるシステム障害は、外国人投資家を始めとする投資家の信頼を失いかねない深刻な状況といえる。

問題の装置は富士通製

 今回の原因は市場に相場情報を伝えるシステムに障害が発生したため。問題が生じた装置は富士通製。バックアップ機能はあったものの、機能しなかったという。10年に導入された高速取引システム「アローヘッド」では銘柄名や基準値段などの基本情報を格納している。このディスクが2つあり、一つが不具合でも、もう一つに同じ情報を書き込んであるため自動的に切り替わるはずだったが、機能しなかった。原因は10月2日現在で不明としている。

 全銘柄の売買が一時的に停止されたケースは2回ある。05年11月1日と06年1月だ。

05年11月に初の全銘柄停止

 05年はシステム障害で寄り付きから午後1時30分までの売買が停止された。この時も売買システムの開発・保守を担当する富士通が作成した作業指示書に記載漏れがあったことが要因。ただ、東証サイドのチェックに対する甘さも指摘されたとされる。

 05年11月のシステムダウンの際はまだ、大阪証券取引所で個別株の売買がなされていた。

 当時を知る証券マンは「当時は東証と重複上場している銘柄については、大証に注文が流れた」という。現在の大阪取引所はデリバティブ(金融派生商品)が軸の取引所であり、投資家は他市場に流れることができない。それどころか、名古屋証券取引所や札幌証券取引所も東証と同じシステムを利用していることで、両取引所とも終日売買ができなかったのである。

 また、05年11月は初のシステムダウンということで、「外国人投資家が日本の株式市場システムに懸念を抱き、外国人売りが出るとの警戒感があった」(大手の調査機関)。

 実際は杞憂に終わったが、売りたいときに売れない、買いたいときに買えないというシステムリスクは、当時大きな問題となった。

2度目は06年1月のライブドアショック

ライブドアショックから急反発した日経平均株価を示す株価ボード(東京都千代田区で2006年1月19日、小座野容斉写す)
ライブドアショックから急反発した日経平均株価を示す株価ボード(東京都千代田区で2006年1月19日、小座野容斉写す)

 06年1月にはいわゆる「ライブドアショック」が起こり、18日の午後2時40分以降、上場全銘柄の売買が全面停止となった。16日夕方に証券取引法違反の容疑により、ライブドア本社や社長の自宅に東京地方検察庁の家宅捜査が入った。翌日17日の東京株式市場では朝からライブドアを中心に新興市場の銘柄などに売りが先行。ただ、全般相場に与える影響は限定的だった。

 ただ、午後から状況は一変する。一部のネット証券がこの日の午後から、ライブドア株のほかグループ企業の株式について、信用取引の担保の評価を突然「ゼロ」としたのである。信用取引の担保にライブドアなどを差し入れていた投資家は、追加証拠金の差し入れ、ないしは換金売りを出す必要に迫られ、ろうばい売りが出て、日経平均も午後から急落。さらに18日には株式市場への売りが止まらず、東証の売買システムの処理能力を超えたことで、午後2時40分以降の売買停止に追い込まれたのである。19日からは、通常12時30分から始まる午後の取引が、4月途中まで、13時からに繰り下げられた。

日本のネットバブルを崩壊させたライブドア

株式取引の全面停止を受け会見でおわびする東証の西室泰三社長兼会長(当時、2006年1月18日、竹内幹写す)
株式取引の全面停止を受け会見でおわびする東証の西室泰三社長兼会長(当時、2006年1月18日、竹内幹写す)

 ライブドアは東証マザーズ市場に上場しており、マザーズの暴落は短期間では収まらなかった。06年の東証マザーズ市指数のピークは2800ポイント。ネット関連やIT関連株の売りが止まらず、さらにはリーマンショックの影響もあり、08年10月には255ポイントまで崩落した。下落率は91%と、10分の1以下になったのである。投資家が離散し、東証ではネット系の企業のIPO(新規株式公開)を絞ったほどだった。

 売買システム停止の影響は一時的なものだったが、ライブドアショックは新興企業への投資回避を決定づける事象となったのである。世界的なIT(情報通信技術)株のバブルは2000年に崩壊していたが、日本のネットバブルはライブドアショックを機に崩壊したといえる。そして、信頼の回復には想定以上の時間がかかったともいえそうだ。

小さいシステム障害は頻発している

 全銘柄の売買停止となったのは05年11月と06年1月の2回のみだが、それ以外にも起きている。

 12年2月にはアローヘッドでの初トラブルで、241銘柄の午前中の売買が停止したことや、18年10月には一部証券会社の大量電文送信で約40の証券会社の注文受け付けができなくなったことなどがある。これ以外にも小さい障害は発生している。

 一方、今回10月1日のケースは終日売買を停止したことが、さらなる混乱を避けられたとの見方が多い。

「東証は万全ではない」という慣れの“深刻”

システム障害による終日売買停止について謝罪する東京証券取引所の宮原幸一郎社長(中央)ら=東京都中央区で2020年10月1日午後4時半、宮間俊樹撮影
システム障害による終日売買停止について謝罪する東京証券取引所の宮原幸一郎社長(中央)ら=東京都中央区で2020年10月1日午後4時半、宮間俊樹撮影

 10月1日寄り付きからの売買停止で、証券会社や顧客は注文がキャンセルになったのかが不明で、取り消しに行く必要があるのかどうかもわからない状況。当日は装置を交換しての再起動(売買再開)は可能だったが、証券会社サイドも通常とは異なる処理が必要で、円滑な取引は困難と判断した。もちろん、当日現金化しないと資金ショートする投資家もいた可能性があり、今後個別には対応する必要はある。

 全銘柄の終日売買停止は証券市場にとっては「大事件」だが、影響が最小限にとどまったことは幸運といえる。

 ただ、一連のシステム障害が続いていることで、外国人投資家を含めて、「東証のシステムは万全ではないもの」という、ある意味慣れのようなものがあるとすれば、事態はむしろ深刻ともいえる。

 今後の課題は故障することを前提とした装置の設計に見直すことや、仮に停止した場合の売買再開の基準作りなど。東証の宮原幸一郎社長が会見で繰り返し使った「ネバーストップ」(絶対に止まらない)というシステムの構築が、今度こそ求められている。(和島英樹・経済ジャーナリスト)

 

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