教養・歴史書評

『なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか』 評者・後藤康雄

著者 戸堂康之(早稲田大学教授) プレジデント社 1700円

国境超えたつながりが知恵を生む 壁は本能レベルに潜む「排他性」

 反グローバル化勢力が台頭し世界の分断化が進んでいる。コロナ禍も加わって、国内外の人や地域のつながりは弱まっている。本書は、コミュニティーやグループの外とつながることが、いかに経済的、社会的に重要か、という時宜にかなった命題を論じた啓蒙(けいもう)書かつ研究書である。

 外とのつながりは海外に行き着く。グローバル化は本書の中心的なコンセプトである。古典派経済学の泰斗デビッド・リカードは、「比較優位論」で、貿易の当事国すべてに及ぶメリットを説いた。その基本的発想は、各国の生産技術に応じた資源の有効活用である。著者は、さらに海外とのつながりの効能にネットワークという視点を加える。そこで重点が置かれるのが、イノベーションの促進である。

「三人寄れば文殊の知恵」というフレーズが本書で度々繰り返される。国境を超えたつながりが新たなアイデアを生み、ひいては経済的成果を高める──こうした可能性が単なる印象論や精神論でなく、データに基づく研究成果などから示される。

 それではひたすらグローバル化を推進すればよいかといえば、大きな壁がある。まず一つはグローバル化の負の影響である。格差の拡大、経済ショックの伝播(でんぱ)、安全保障上の懸念といった副作用が近年の反グローバル化の背景にある。これらへの対処がないままに再びグローバル化を進めることには、普段自由貿易を推奨することが多い経済学者たちの多数派も抵抗感を覚えるだろう。

 さらに根深いのは、どうやらわれわれの本能レベルに、自分たち以外の「よそ者」を排除しようとする排他性が組み込まれているおそれである。著者は、心理学や社会学の実験結果などを多数引用し、こうした排他性の証左を示している。

 グローバル化の恩恵の裏に深刻な弊害があり、私たち自身に排他性が埋め込まれているならば、もうグローバル化は期待できないのか。筆者はそれらを克服する提言も用意している。グローバル・サプライチェーン(国境をまたぐ生産の連鎖構造)を通じた海外からのショックには、むしろ多様な国々とのつながりを拡大して影響を分散することが有効、などその内容は示唆に富む。

 映画「七人の侍」では、外から集められたバックグラウンドの異なるつわものたちが外敵から村を守る。著者が言うような、既存の殻を破ってよそ者を受け入れる冒険心をわれわれ自身が育てられるか。日本経済の長期的衰退を食い止める鍵がそこにあるように思われる。

(後藤康雄・成城大学教授)


 戸堂康之(とどう・やすゆき) 1967年生まれ。学習塾経営を経て、スタンフォード大学経済学部博士課程修了(経済学Ph.D.取得)。専門は国際経済学、開発経済学。著書に『途上国化する日本』『日本経済の底力』など。

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