教養・歴史書評

『2021年以後の世界秩序 国際情勢を読む20のアングル』 評者・田代秀敏

    著者 渡部恒雄(笹川平和財団上席研究員) 新潮新書 760円

    米国主導の世界秩序は解体へ その過程と現在を理解する試み

     東西冷戦の亡霊が「米中新冷戦」に化け世界を彷徨(ほうこう)している。しかし、「第2次世界大戦を経てイギリスが、経済と軍事で他を圧倒する新興国家のアメリカに覇権を譲ったときのようなダイナミズムを、現在の世界は内包している」と著者は洞察する。

     そのダイナミズムは「第2次世界大戦後にできた多くのパラダイムあるいは間尺では計り得ないだろうという仮説のもとに」 、著者は「所与のものとして使ってきた分析ツールや発想を見直し、先例も第2次世界大戦以前に引き延ばし、現在の常識とは異なる視点から」、現在の世界で起こっている20の現象を切り口にして、「2021年以後の世界秩序」を探っていく。

     焦点を置くのは中国の経済・軍事的台頭、反移民ナショナリズム、トランプ主義であるが、共通の背景は「アメリカの衰退」である。

     米国に留学して政治学者となり、ワシントンDCの有力シンクタンクでキャリアを重ねた著者は、米国の内実を熟知している。

    「新型コロナウイルスは、アメリカを一つにまとめるどころか、アメリカの二極化を進め(中略)『南北戦争』のレベルにまでエスカレートさせるかもしれない」と著者が予言した通り、本書刊行の翌月、トランプ大統領に扇動されたトランプ主義者たちが連邦議会議事堂を襲撃した。

     議事堂前に絞首台を建て、「ペンス副大統領を吊(つる)せ」と絶叫しながら議事堂に突入した暴徒の中には、アウシュビッツ強制収用所を賛美するTシャツを着たネオナチがいた。

     あの衝撃的な光景は異常事態ではなく、米国の建国以来の歴史の必然的な帰結であったことが、本書全体を通して明晰(めいせき)に示される。

     著者が述べている通り「パンデミックは世界史の基本的な流れと方向性を変えるのではなく加速する」。

     その果てにどのような世界秩序が形成されるのかを考察するために、コンパクトなのに内容豊富な本書は極めて有益なヒント集である。

     著者の父である政治家・渡部恒三氏の旧制中学・高校時代の親友であった小室直樹氏は、ソビエト連邦崩壊に11年先立つ1980年に、『ソビエト帝国の崩壊』を著した。

    「平易な言葉で、世界の転換を予言したこの名著との出会いなしに、今の私と本書はない」 と著者は「おわりに」で述べている。

    「第2次世界大戦後の米国主導の世界秩序を解体していくような流れ」を展望する本書に出会った青年は40年後の2060年に世界の転換をどのように予言するのだろうか。

    (田代秀敏、シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)


     渡部恒雄(わたなべ・つねお)  1963年生まれ。東北大学歯学部卒業、米国ニュースクール大学政治学修士課程修了。戦略国際問題研究所(CSIS)、三井物産戦略研究所等を経て現職。著書に『2025年米中逆転』など。

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