『フランクリン・ローズヴェルト 大恐慌と大戦に挑んだ指導者』 評者・上川孝夫
著者 佐藤千登勢(筑波大学教授) 中公新書 880円
危機を乗り越えた大統領 現在にも生きるリーダー像
アメリカの歴代大統領でただひとり4選され、4期目途中で病死するまで12年の長きにわたり政権を担当したのがフランクリン・ルーズベルトである。在任中、大恐慌と第二次世界大戦という二つの深刻な危機に直面した。本書は彼が生きた激動の時代を振り返り、この指導者の実像に迫っている。
大恐慌最中の1932年の大統領選で、ルーズベルトは共和党現職のフーバーを歴史的な大差で破る。2008年のリーマン・ショック直後の大統領選挙で勝利したオバマ、また今回の新型コロナウイルス禍で共和党現職のトランプを退けたバイデンは、危機の最中に誕生した民主党の大統領として、このルーズベルトに重なるところがある。
ルーズベルトが「ニューディール」(新規まき直し)を初めて使ったのは、大統領の指名受諾演説においてである。その思想がどこに由来するかも含めて、彼の生い立ちをたどっている。1929年の株暴落時にはニューヨーク州知事として失業対策に取り組むなど、経験を積んだ。
本書にはニューディールの主な施策が丁寧に解説されている。公共事業では建物などをやみくもに造るのではなく、自然保護などにつながるものを構想し、不況のあおりで創作の道を断たれた芸術家などには、特別のプログラムを創設した。コロナ禍の現在にも通用しそうな話である。
第二次大戦時の解説も詳しい。アメリカが主導権を握ることを可能にした戦時の政策が丹念に紹介されている。また、英国のチャーチルやソ連のスターリンなどとの会談にとどまらず、41年の日米開戦の翌年から始まった日系アメリカ人の強制収容に妻のエレノアが強く反対したことなど、さまざまな家族模様が描かれている。
ルーズベルトは、「炉辺(ろへん)談話」というラジオ番組で、自らの考えを直接国民に語りかけた大統領としても知られる。ポリオ(小児まひ性脊髄(せきずい)炎)による闘病生活を経験し、肢体が不自由だったが、代わってエレノアが全米各地を回って、情報を届けた。側近も大統領に不愉快な真実や否定的な意見を述べることに躊躇(ちゅうちょ)しなかったという。
ルーズベルトの危機の乗り越え方は、必ずしも完璧ではなく、批判も浴びたが、並外れた指導力を発揮した人物として、今後も大統領の「モデル」であり続けると著者は見る。近年刊行された伝記などもしっかり参照されている。指導者のリーダーシップが問われる現在、時宜を得た一書である。
(上川孝夫・横浜国立大学名誉教授)
佐藤千登勢(さとう・ちとせ) 1963年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、デューク大学大学院歴史学部博士課程修了。ハーバード大学客員研究員、筑波大学人文社会系准教授を経て現職。著書に『軍需産業と女性労働』』など。