高騰続く韓国マンション価格 文在寅政権の対応後手に=金明中
韓国で不動産価格が高騰を続けている。もともと上昇傾向にあった不動産価格だが、文在寅(ムンジェイン)政権下でさらに価格上昇が加速。文政権は相次いで不動産価格の抑制策を打ち出したものの、目立った効果は上がっていない。価格高騰は新型コロナウイルス禍の中でも収まらず、国民の不満が高まっていることが文政権の支持率低下にもつながっている。
韓国不動産院(旧韓国鑑定院)が2月5日に発表した住宅価格動向によると、今年1月の住宅の不動産価格指数(2017年11月=100)は107・1で、地域別では韓国の行政首都ともいわれている世宗(セジョン)特別自治市が140・0と最も高く、次いで大田(テジョン)市(126・4)、大邱(テグ)市(112・5)、京畿(キョンギ)道(112・3)、ソウル市(111・5)、仁川(インチョン)市(108・9)の順で上昇幅が大きかった。
ソウル市は住宅価格全体としては価格上昇は目立たないが、マンション価格の上昇は際立っている。韓国不動産院の統計によれば、ソウル市の共同住宅実取引価格指数(17年11月=100)は昨年12月、145・5となり、17年5月の文政権発足時と比べると4年弱で1・5倍に上昇している(図1)。こうしたソウル市のマンション価格高騰は他の都市にも波及し、昨年に入ってから騰勢を強めている。
ソウルでのマンション価格が高騰する背景には、首都圏への人口集中が続いていることがある。ソウル市、仁川市、京畿道で構成される首都圏の面積は韓国全体の11・8%に過ぎないが、首都圏の人口は増加の一途をたどり、19年には韓国全体の人口(約5200万人)の半分を超えた。雇用が他の地域よりも旺盛なことに加え、学歴社会の韓国で子どもの進学には有名塾などが集まる首都圏に住む方が有利という事情もある。
「チョンセ大乱」
文政権は不動産価格を安定させようと、今年2月まで計25回の対策を打ち出しているが、思うような成果を上げられていない。むしろ、ソウルのマンション供給量は不足しないとの判断ミスや、不動産投機の抑制を理由に新規の住宅建設を規制しており、価格高騰に拍車がかかっている。特に、ソウル市の住宅建設の許可・認可数は20年、5万8181戸と17年(11万3131戸)に比べてほぼ半減した(図2)。
文大統領は就任1年目に、多住宅保有者に対して譲渡所得税の重課が適用される調整対象地域を追加指定した「6・19対策」、ソウル市全体を「投機過熱地区」、ソウル市11区を「投機地域」に指定した「8・2対策」、賃貸住宅を供給するため、多住宅保有者が賃貸事業者に登録して住宅を賃貸した場合、財産税や所得税などの税金や健康保険料を減免する「賃貸住宅登録活性化政策」など、さまざまな政策を実施した。
しかし、与党の共に民主党の支持層を中心に、賃貸事業者に対する税制優遇措置に反対する声が高まったため、韓国政府は18年9月に政策の内容を修正し、税制優遇措置を縮小する決断を下した。肝煎り政策を自ら蹴とばす形となり、不動産政策に対する文政権の信頼性は大きく失われた。追い打ちをかけたのが、昨年7月の住宅賃貸借保護法施行後に起きた「チョンセ(伝貰)大乱」だ。
韓国ではチョンセと呼ばれる独特の住宅賃貸制度が普及している。借り主が契約時に住宅価格の5~8割程度の金額(チョンセ金)を貸主に預け、貸主はこの金額を運用して収益を得ることで家賃代わりとする制度だが、韓国では金利低下によってチョンセ物件が減少。貸主には家賃を月払いする「ウォルセ」(月貰)へと切り替える動きが広がっていた。
支持率低下に拍車
チョンセからウォルセへの契約の切り替えによって、借り主の立場が不安定化することを懸念した文政権は、住宅賃貸借保護法に「契約更新請求権」と「チョンセ・ウォルセ上限制」を盛り込んだ。それまでは借り主と貸主の協議を通じて2年ごとに契約期間を延長してきたが、今後は借り主が希望する場合、1回に限りさらに2年、既存の契約を延長できるとした。
しかし、これを受けて市場に出回るチョンセ物件が急激に減少する事態が生じた。韓国不動産院の全国住宅価格動向調査によれば、ソウル市のチョンセ需給指数(100を超えると需要超過)は20年7月、117・5だったのが、12月には過去最高となる133・5へと急激に上昇した。チョンセ物件の供給不足などからチョンセ金の水準も引き上がっており、住宅難が一段と進行している。
韓国の有力な市民団体「経済正義実践市民連合」は今年1月、政権別のソウル市のマンション価格上昇率を発表し、文政権下(17年1月~20年12月)で25坪(約83平方メートル)のマンション価格が82%上昇したと発表。廬武鉉(ノムヒョン)政権(03年2月~08年2月)以降では、廬政権の上昇率(83%)に次ぐ高さだとして、文政権への不動産政策に対する批判を強めている。
文大統領は1月18日の新年記者会見で「今まで不動産投機を防ぐための対策を主に実施したものの、不動産の安定化には寄与できなかった」と不動産政策の失敗を事実上認めた。そして、2月4日には公共住宅を中心に住宅建設を大幅に加速し、25年までにソウル市で32万戸、ソウル以外の地域に51万戸の住宅を建設する「2・4対策」を発表した。
ただ、こうした住宅が実際に供給されるにはしばらく時間がかかり、不動産価格の沈静化につながるかどうかは不透明だ。こうした不動産価格高騰への国民の不満も一因となり、韓国の世論調査会社リアルメーターによれば、政権発足当初に84・1%あった文政権の支持率は、今年3月第3週は34・1%と政権発足後の最低を記録した。来年5月の大統領任期満了まで1年半を切る中、不動産価格高騰が文政権の重い難題となってのしかかっている。
(金明中・ニッセイ基礎研究所主任研究員)