法務・税務さよなら所有者不明土地

所在不明の共有者 現存の共有者による売却・処分を促す新制度=横山宗祐

    都心でも、身動きが取れず空き家になった物件も
    都心でも、身動きが取れず空き家になった物件も

     土地・建物の共有者の中に、所在不明者や連絡を取りにくい者がいると、処分や売却が滞り、土地利用の妨げとなる。この問題に対処するため、民法改正の要綱には、共有制度の見直しも盛り込まれている。では、実際に問題となり得るケースにおいて、どのような見直しが検討されているのであろうか。(不動産法制)

     ケース1

     A、B、C、Dの4人で土地を共有しており、A〜Cの3人の間では、もうこの土地の管理が大変なので売却しようという話となっている。しかし、Dの行方が分からないため、連絡を取ることができない。

     現行の民法の共有制度では、(1)共有物の保存(修繕など)については各共有者が単独で、(2)管理(賃貸借の解除など)については持ち分価格の過半数により、(3)変更(売却、取り壊し、土地造成など)については共有者全員の同意により、可能とされている。

     ケース1は共有物の変更に当たり、Dを含む全員の同意が必要だ。しかし、所在不明の共有者がいる場合には、共有者間の意思決定や持ち分の集約が困難である。

    軽い「変更」は要件緩和

     共有物の変更に全員の同意を必要としているのには、一定の合理性がある。たとえば、共有となっている建物を取り壊したり、第三者に売却する場合に、一部の共有者が勝手に行うのは問題がある。しかし、「変更」の中には、軽微なものも含まれる。たとえば、砂利道をアスファルトに舗装することなども「変更」に当たると解釈されている。今回の見直しでは、このような軽微な「変更」については、共有者全員の同意までは必要とせず、共有者の持ち分の過半数で決定できるという提案がなされている。

     ケース1の場合、現行法では、売却準備のため、共有地の道路部分を砂利道からアスファルトに変更したいと考えても、Dと連絡がつかず、手続きが難航する。しかし、要綱によると、A〜Cで共有持ち分の過半数を持っていれば、その3人の同意で道路部分の舗装を行うことが可能となる。

     現行民法の共有制度では、前述のように保存、管理、変更を行うための要件は明文化されているが、どのような行為が管理に該当するのかについては規定されておらず、解釈に委ねられていた。そのため、共有者は共有物に関する行為を行う際、慎重に考え、共有者全員の同意を取って行動することが多い。

     今回の要綱では、全員の同意が必要な「変更」と、持ち分価格の過半数の同意で十分な「管理」の範囲を明確にしている。たとえば、短期使用権の設定(5年未満の建物所有目的でない土地の賃貸借契約の締結など)は「管理」に該当するとして、共有者の持ち分価格の過半数で決定できることを明確にしている。

     また、「共有者と連絡がつかない」というレベルではなく、登記や戸籍、住民票などを確認するなど、調査を尽くしても、所在が分からない共有者や、誰が相続人なのか、誰が共有者なのかが判断できないような場合(「不明共有者など」という)には、その不明共有者などに対して公告(裁判所掲示板などに一定期間告知を出すこと)を行ったうえで、残りの共有者の同意の下、共有物の「変更」や「管理」を行えるとする制度が提案されている。なお、共有者や相続人が本当に特定できないのか、所在が本当に分からないのかについては、裁判所が確認する制度を想定している。

     さらに、今回の要綱において、共有者は、相当の金額を供託して、不明共有者の不動産持ち分を取得・売却できるという制度も提案されている。

     ケース1の場合、現行法の下では、この不動産を管理・変更する場合には、Dの不在者管理人を選任した上で、A〜Cと不在者管理人が管理や変更についての協議を行ったり、共有物分割調停・訴訟などの手続きを経て共有関係の解消を図るといった、負担の重い手続きが必要だ。しかし、要綱によると、Dを不明共有者とする認定を申請し、公告などの手続きを取った上で、A〜Cの同意で、この土地の「変更」や「管理」をすることが可能になる。さらに、A〜Cは、Dの持ち分相当額を供託することで、Dの不動産持ち分を取得したり、売却することができるようになる。

     ケース1は4人の共有であるが、数人での共有であった不動産が何代にもわたって相続時に登記されずにいると、制度上は法定相続人が共有者となる。この結果、共有者が百人単位にもなる「メガ共有」の不動産が生じる。この不明共有者などへの公告・供託制度は、メガ共有の不動産にも対処でき、事実上、利用・処分できなかった土地の利活用への道が開けることが期待される。

    窓口役の権限明確に

     ケース2

     Xは隣地が空き地となっていることから、駐車場として借りようと計画した。所有者とおぼしきAに話を持ち掛けたところ、その土地はA、B、C、Dの4人で共有しており、B〜Dの3人は遠くに住んでいるので、連絡が取りにくいとの返事であった。

     現行の民法の共有制度には、共有物についての対外的な窓口・交渉相手となる代表者についての定めがない。そのため、共有者の誰と話をしたらよいのか、いちいち全員と話をしなければならないのかは、あいまいであった。また、共有者同士の間でも、管理人選任についての規定がないことから、管理人を選任する場合には全員の同意が必要なのか、それとも過半数の同意で足りるのか明確でなかった。要綱では、共有者の持ち分価格の過半数で、管理者を選任することができる制度を新たに設け、手続きや権限を明確にする提案がなされている。

     ケース2の場合、現行の民法の下でも、XはA〜Dを貸主として、駐車場の利用についての契約を結ぶことができる。しかし、Aを土地の管理人とみて窓口として交渉できるか、可能だとしても、AにB〜Dとの間で合意を取り付けてもらうという形態が適切かが明確でなかった。このため、XはAを窓口として交渉するにしても、不安が残る。今回の要綱によれば、共有物の管理者の選任手続きや管理人の権限内容が明らかとなる。Xとしても、管理人として活動するAとしても、安心して法律で定める範囲の利用契約を締結することができるようになる。

    (横山宗祐・横山山王法律事務所 代表弁護士)

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