金 1700ドル割れで底打ちか 生産量減少も下支え要因=菊川弘之
金相場は2020年8月に1トロイオンス=2063ドルの史上最高値を更新した後、調整局面に入っている。最高値更新に貢献した金ETF(上場投資信託)への資金流入が、資金流出へ転じたことが一因だ。世界的な債務増大に伴う通貨への信認低下が金価格高騰をもたらしたが、ヘッジファンドや機関投資家が金からビットコインなど暗号資産へ運用資産を振り向ける動きが広がった。(資源高襲来!)
特に、米電子決済大手ペイパル・ホールディングス(HD)が昨年10月末、世界2600万の加盟店への支払いにビットコインなどの暗号資産を利用可能にすると発表したことをきっかけに、ヘッジファンドや機関投資家に投資対象として認識されるようになった。
今年2月末に米7年債の入札不調をきっかけに、米長期金利が上昇し、金利のつかない金は急落した。ただ、3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)では、改めて低金利政策を長期化する方針が示されたことで、米長期金利の上昇は一服し、金相場も内外ともに底打ち反転している。
足元のニューヨーク金先物(NY金)価格は、昨年8月の高値から19%安の水準にある。参考になるのは、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長(当時)が13年5月、金融緩和縮小を示唆して金利が急騰した「バーナンキ・ショック」以降の金の値動きだ。
NY金価格は18年11月までの間、米金利の大幅上昇によって下落した局面が4回あり、その際の下落幅は10~18%程度だった。足元のNY金の高値からの下落幅を見ると、すでに過去の金利急騰時の下落幅に収まっており、1700ドルを割り込んだ局面で底値を付けた可能性が高い。
歴史的に見れば米金利は低水準であり、今後も追加経済対策や新型コロナウイルス禍からの景気回復局面で、金利上昇圧力は続くだろう。金利上昇は金価格には悪材料だが、中国と並ぶ金現物の需要国であるインド・米国では、安値での買いの動きも強まっている。
また、金は19年第2四半期(4~6月)以降、採掘コスト上昇などを要因に生産量が減少傾向にある。鉱山会社が今後、新規開発・設備投資を進めても、生産量が増えるにはしばらく時間がかかるため、こうした供給面の制約も金価格を下支えする材料になる。
債務累増にリスク
コロナ対策として米国をはじめ各国が巨額の財政出動に乗り出し、債務が累増している。今後、景気回復に伴う「良い金利上昇」から、何らかの要因で財政リスクを懸念した「悪い金利上昇」に転じる局面が来るかもしれない。その時、債券価格の暴落やインフレの急伸とともに、金が「安全資産」としての価値を発揮する。
(菊川弘之・日産証券主席アナリスト)