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教養・歴史書評

『子育て支援の経済学』 評者・井堀利宏

著者 山口慎太郎(東京大学大学院教授) 日本評論社 1870円

子育て支援策の効果や問題点 計量経済学的に分析、新提案も

 本書は、若い夫婦の子育て支援策の効果や問題点を実証的に精査する。具体的には、育児休業、保育制度、児童手当などの諸制度、政策について、諸外国での実証結果も参照しつつ、包括的、詳細に日本の支援策の内容を実証分析し、政策評価する。子育て支援には財源や人材を要するから、期待される効果が本当にあるのか、どの程度の大きさなのか、さらに、その政策の副作用がどの程度懸念されるかなど、定量的に解明すべき論点は多い。この分野で優れた業績を上げている著者は、因果関係に留意した実証分析を重視し、その結果に基づく政策形成を子育て支援分野でも活用すべきと主張する。

 ある子育て支援に期待された効果がデータ上で見られたとしても、それは相関関係を意味するだけで、必ずしも、その政策が期待された効果をもたらしたという因果関係の証左とはいえない。因果関係を検証するには、差の差分析、操作変数法、回帰不連続デザイン、限界介入効果分析などの統計的手法が必要になる。本書はこうした計量経済学手法を付録で解説するとともに、本文では数式なしの直感的な議論で計量分析の手法や結果を丁寧に説明している。

 保育を充実させる政策は費用対便益という観点から正当化できるが、給付金額が育休所得前の所得に依存する育休政策は、所得の高い人に有利という点で問題がある。また、保育所入所における利用調整が現状の母親就業状態に配慮するあまり、母親就業増が期待できる家庭の利用にはつながっていない。認可保育所の拡充は祖父母による保育との置き換えを考慮すると、母親就業に大きな期待はできない。所得に応じた適切な料金を徴収した上で、できるだけ多くの家庭が保育所を利用できる政策が望ましいと主張する。

 少子化対策として、年金支給額を子供の数に連動させたり、子育て支援財源で国債を発行したりすれば、最適な出生率が達成できるという指摘は興味深いが、最適な出生率の議論としては説明不足だろう。子育て支援で次世代への投資が期待できるという議論でも、人的資本形成のより具体的な検証が欲しかった。

 本書は経済学部のゼミや卒論で子育て支援を扱う際の絶好の参照文献である。また、実証結果に基づく政策形成(EBPM)に寄与するヒントも多く、政策担当エコノミストにとっても有用性は高い。ただし、因果関係の検証を強調するテキスト的な色彩も強いため、一般読者が議論を消化するには、それなりにしっかりした読解力が求められる。

(井堀利宏・政策研究大学院大学特別教授)


 山口慎太郎(やまぐち・しんたろう) 2006年、ウィスコンシン大学マディソン校で経済学博士号(Ph.D.)取得、19年より現職。家族の経済学と労働経済学が専門。『「家族の幸せ」の経済学』で第41回サントリー学芸賞受賞。

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