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3度目の「緊急事態」 露呈した日本の危機管理の弱点 ジャーナリスト・鈴木哲夫

「サンデー毎日5月9・16日合併号」表紙
「サンデー毎日5月9・16日合併号」表紙

 もはや3度目だ。政府は4月23日、東京、京都、大阪、兵庫の4都府県に緊急事態宣言の発令を決めた。最初の宣言から約1年余り。新型コロナウイルスへの対応で露呈したのは、日本の政府や地方自治体の危機管理能力の弱さだ。何が問題なのか、再検証する。

コロナ報道に寄せられた「疑問」

 講師として時々、声をかけていただいている東京都内の市民講座で4月中旬、高齢の受講者の方から意見を突き付けられた。

「実は、報道で疑問があるんですが……。テレビで毎日のように新型コロナを取り上げているが、気になるのは順番です。まず感染者数を言う。次に重症者数、そして死者数です」 続く指摘は胸に強く刺さり、反省させられた。「これって、逆じゃないでしょうか。死者数がまず先でしょう。飲食業や経済とかから見るのではなく『命の問題』という視点が欠けている。だから、若い人らにも危機感が伝わらない」

 コロナ対策で為政者のメッセージが足りない、弱い、覚悟がない、と報道は批判してきた。だが、メディア自身のメッセージもピントがずれていたのではないか。指摘の通り、新型コロナは命の問題である。

 大阪府内の私立大の大学病院に務める教授は「『重症者が前日と変わらない』などと伝えられるが、実態は死者が出て、入れ替わっている。毎日亡くなる人がいることが軽んじられている」と語る。その大阪では一つの集中治療室を巡り、コロナ患者か、通常の救急患者か、そのどちらが使うか。「命の選別」(前出の教授)を強いられている。

 政府や都道府県が今やるべきことは、この「命の問題」という視点を持って当たらなければならないのではないか。思い切って人の流れを抑え、時短ではなく休業、休校も必要ではないか。徹底してやる。もちろん十分な補償を実行する。

 そして、最初の緊急事態宣言から1年が過ぎた。

「最悪の状態」を示さない日本

「日本の政治の弱点が危機管理だということを、今更のように露呈した」

 そう話すのは、民間の危機管理団体の理事だ。

「特に基本中の基本である、常に最悪の状態を考え『最初は対策を目いっぱい広げる』という決断ができていない。大丈夫なら、次第に緩めていけばいいだけ。ところが日本の場合、政府や地方自治体は、社会への影響や行政の後始末を考え、小出しに対策を打っていく傾向がある。海外などはロックダウンなど最も厳しい措置から入る所が多い」(前出の団体理事)

 これが如実に表れた例はいくつもある。東日本大震災の原発事故。政府は避難区域を半径数㌔、10㌔、20㌔と次第に広げた。だが、これで国民の不安が一気に膨らみ、混乱が起きた。本来なら最初に50㌔と輪を大きくし、大丈夫なら20㌔、10㌔と狭めていくものだ。

 2年前の台風による千葉の大型停電も同様だ。東京電力は「早期復旧を目指す」と言いながら、翌日には「数日後」、さらには「2週間かかる」。これで住民の苦労や精神的な苦痛は増幅していった。これも最初に「最悪2週間かかる」とし、うまくいけば「1週間で」と狭めていけばいい。

「コロナ対策は緊急事態宣言の期間など『最悪の状態を言う』との観点が抜けています」(前出の団体理事)

見通しがあれば「国民は我慢できる」

 次に危機管理で重要なポイントは常に見通し、スケジュールを示すことだ。我慢はいい。「じゃあ、いつまで」と答えるのだ。

 ある政権幹部は「下手に示し、実際に収束しなければ、かえって社会不安になる。だからスケジュールなどは出せない」と話す。

 だが、危機管理上は「違う」と前出の理事は言う。

「新型コロナのような未知の感染症は、見通しが間違うのは仕方ない。リスクがあっても宣言期間はいつまでで、その後はどう緩めながらやっていくか。その先にワクチンの日程があり、最終的には『来年の春まで』といったように出せば、国民は我慢できる。もちろん科学的な知見からスケジュールをはじき出す。ここができていない」

「逆の発想」住民を前向きにする

 そして、もう一つ。危機管理には「逆の発想」も必要だ。「やってはいけないこと」ばかり羅列するのではなく、その逆だ。

 危機管理アドバイザーのNPO法人代表が言う。

「去年4月の緊急事態で埼玉県の大野元裕知事がやったことが、それです。当時は目立たなかったが、飲食店に営業自粛ではなく、逆に感染対策などを完璧にしていれば『営業していい』と政策を打ち出し、そんな店をチェックした後に『安全な店です』と証明するステッカーを貼った。東京都や山梨県も続いた。こうすれば住民も『前向きで頑張ろう』という気持ちになります」

 実は、大野氏は参院議員時代から中東問題など安全保障のエキスパートだった。決して医療の専門家などではない。しかし、「安保はイコール危機管理。つまり大野さんは危機管理の何たるかを知っている。日本中がオール自粛の中で逆の発想が出てきた」(同代表)というわけだ。

パチンコ店、タクシーの現状は

「逆の発想」として生かせるケースがある。パチンコ店は感染の温床のように言われたが、クラスターなど発生していない。東京に本社がある大手パチンコチェーン社長は「みんながしゃべらず、間隔を空けて同じ方向を見る。何と言っても換気ではないか。喫煙などもあり、店の換気設備は相当強力」と話す。政府は科学的に検証しただろうか。

 都内のタクシー会社は約200人の運転手が所属する。あれだけ危険と言われていたタクシー。この会社で1年間に感染した運転手は2人。いずれも家庭内感染で、業務中の感染はゼロだった。都内のタクシー会社の幹部は「車中をシートで区切り、お客様が降りた後にシートを消毒し、しゃべりかけない。でも、最大の効果は換気ではないか。冬でも窓を開け続けた」。

 こうした事例を挙げ、「これなら営業できる」という情報を挙げることも、危機管理のノウハウである。4月23日、3度目の緊急事態宣言の発令が決まった。節目にこそ、政府も自治体も、危機管理の基本を肝に銘じるべきだ。

 4月27日発売の「サンデー毎日5月9・16日合併号」は、他に「短期集中シリーズ しなくていいランニング」「専門家3氏が読み解く 新型コロナ正常化スケジュール」「ホテル業界 あの手この手のサバイバル策」などの記事も掲載されています。

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