取られすぎ! 実例に学ぶ課税ミス 大阪市は71億円返還へ=編集部
固定資産税の土地に対する課税の誤りで頻発するのが、「住宅用地の特例措置」の適用漏れだ。住宅用地の特例措置は、200平方メートルまでの小規模住宅用地なら課税標準が評価額の6分の1に、200平方メートル超の一般住宅用地は3分の1とするもので、税額の大幅な軽減につながるために適用漏れの影響は大きい。また、長期間にわたって見過ごされれば、さらに影響は大きくなる。(固定資産税)
大阪府泉大津市は昨年9月、家屋が新築された14件の土地について、小規模住宅用地の特例措置の適用を漏らしていたと発表した。課税の誤りは1999~2020年度の22年間にわたるが、市の要綱で対象となる20年間分の固定資産税1047万円分を返還し、利息に相当する加算金を加えた返還額は計1380万円にのぼる。
固定資産税の税額計算などは、市町村(東京23区は東京都)が導入するシステム上で実行されている。泉大津市によれば、これらの土地について住宅用地の特例措置を適用するよう入力されていなかったことが原因だが、入力を漏らした理由は分かっていない。今年度の評価替えに合わせて新たなシステムを導入し、データを検証する過程で誤りが見つかったという。
住宅用地の特例措置の適用対象は、一戸建てやマンションに限らない。滋賀県湖南市は昨年8月、会社の社員寮として使われている土地1200平方メートルに対し、住宅用地の特例措置を適用していなかったと発表した。誤っていたのは79~20年度の42年間にわたるが、市の要綱では返還期間は過去10年分。20年度分は途中で課税の誤りを修正したため、19年度までの9年分の過大徴収額320万円と加算金30万円を返還する。
安来市、狛江市でも
また、島根県安来市は今年2月、グループホームや有料老人ホーム6カ所の土地に対し、住宅用地の特例措置を適用していなかったと発表した。こうした施設も人が常時居住するため、本来は住宅用地の特例措置の適用対象となる。固定資産税を過大徴収していた期間は最長で30年間にわたるというが、市の要綱では返還は過去20年分と定めており、加算金を加えた返還額は2300万円余りとなる。
固定資産税の事務がシステム上で実行されていると、プログラムなどにミスが生じれば、課税の誤りも広範囲にわたる。東京都狛江市は昨年6月、18~20年度の固定資産税で家屋の評価額を誤り、納税者約990人に対して固定資産税約1400万円を過大に徴収していたと発表した。
固定資産税の建物(家屋)の評価では、新築時に決定した評価額について、3年に1度の評価替えごとに建築資材などの物価変動分を加味する「再建築費評点補正率」を掛け、評価額を付け直す。狛江市では18年度の評価替えを前にシステムを入れ替えた際、14~15年度に新築された家屋の一部について、当時の再建築費評点補正率(木造1・05倍、非木造1・06倍)を2乗して評価額を算出したため、家屋の評価額が過大となっていた。
本来は非課税のはずの固定資産に誤って課税していたケースもある。京都府木津川市と京田辺市は昨年10月、中小企業団体などが所有・使用する建物に誤って課税していたと発表した。木津川市では3棟に対して最長44年間、京田辺市では1棟に対して41年間、誤って課税していた。両市とも要綱に基づき、20年間分の固定資産税と加算金を返還し、木津川市では返還額は計998万円、京田辺市では730万円になる。
地方税法では学校法人の学校や宗教法人の寺社、社会福祉法人の老人福祉施設などの固定資産は非課税となっているほか、農業協同組合や健康保険組合、労働組合、中小企業団体などが所有・使用する建物も非課税となっている。市町村の担当者の理解が不十分だったりすることで、非課税のはずの固定資産に誤って課税するケースは全国で相次いでおり、納税者もしっかり確認することが必要だ。
大阪市は昨年6月、市が独自に定めた家屋の評価方法を巡り、最高裁判決で違法とされたことなどを受け、約71億円を納税者に還付する見込みだと発表した。市内にある不動産の所有者が市を相手取って起こした訴訟で、大きな争点になったのがワンルームマンションなどの建設に使われる「PHCくい」と呼ばれる既製くいの一種の評価方法だ。
総務省が定める「固定資産評価基準」では、家屋の固定資産税評価額を算出するに当たり、建設に際して使用した部材の量などを積算する「再建築価格方式」を用いる。そのうえで、使用した部材の質などに応じて評価を上げたり下げたりする補正(増点補正率、減点補正率)を講じている。大阪市では固定資産評価で市町村に一定の裁量が認められていることを根拠に、PHCくいに独自の評価方法を導入していた。
大阪市ではPHCくいについて、強度が高いことなどを理由に、一般的な既製くいに比べて高く評価。98年新築のPHCくいを使ったマンションの評価で、一般的な既製くいに対して「8・64倍」の増点補正率を適用し、評価額を算出していた。しかし、当時の固定資産評価基準では、増点補正率の上限を「5・00倍」としており、判決では上限を上回る増点補正率が違法であると判断された。
しかし、そもそも固定資産税は評価の仕組みや税額の計算過程が複雑なうえ、納税者が誤りを指摘しても市町村が認めなければ、多大な時間や労力をかけて争わなければならない。この訴訟の原告がマンションの評価額が過大だとして、大阪市の固定資産評価審査委員会に審査を申し出たのが、評価替えの年だった15年5月。その後、大阪地裁への提訴を経て最高裁判決が出されるまで、実に4年以上もの歳月がかかっている。
最高裁の初判断
固定資産税を巡る訴訟では、最高裁が昨年3月、さらに新たな判断を示したことが、大阪市への影響を大きくした。固定資産税では家屋の新築時に誤った評価額が付けられれば、その後も誤った評価額を基に課税され続ける。最高裁はこうした家屋の評価額の誤りによる固定資産税の過大徴収について、賠償責任が生じる不法行為が発生するのは、評価額を付けた新築時ではなく「毎年度の納税通知書が交付された時」と初判断した。
当時の民法では不法行為から20年たつと損害賠償請求権が消滅する「除斥期間」を定めていた。最高裁はこれを踏まえ、20年より前に新築された家屋評価が誤っていた場合でも、過大徴収した20年間分の固定資産税について賠償責任があるとした。
大阪市は昨年2月の時点で、PHCくいを違法に高く評価していた市内の家屋全体への還付・返還額について、20年以内に新築された物件は最大20年間分、それ以前に新築された物件は地方税法の時効にかからない5年分として、総額16億円と見積もっていた。しかし、昨年3月の最高裁判決を受けて、20年より前に新築された物件も20年間分を還付・返還することとした結果、71億円へと大幅に増えた。還付・返還対象の納税者数も約3万人から約3万4000人へと増加することになった。
PHCくいの評価を巡る訴訟で代理人を務めた伊藤勝彦弁護士は、「固定資産税は評価額の算出根拠などが納税者には極めて分かりにくい。課税のプロセスを納税者にも分かるように透明化することが必要だ」と話している。
(編集部)