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自転車 通勤・運動目的で大流行 女性や高齢者も気軽に楽しめる=向山勇

電動アシストのついたスポーツ自転車が人気
電動アシストのついたスポーツ自転車が人気

「東日本大震災以降、自転車を利用する人はじわじわ増加していたが、コロナ禍をきっかけに、ブームに火が付いている」──入門者向けの自転車情報を発信するウェブメディア「FRAME」を運営する「自転車創業」の田村明寛氏は、最近の活況ぶりをこう語る。国内だけでなく、世界中にブームは広がっているという。(密にならないレジャー)

 田村氏は、コロナ禍が自転車ブームを引き起こした三つの理由を指摘する。

 一つ目は、電車などの公共交通機関を利用しないための手段。コロナ禍でリモートワークが一気に普及したとはいえ、会社が対応していない、業種的に難しいなどの理由で、通勤を続けなければならない人も少なからず存在する。しかし、公共交通機関は密になりやすく、感染のリスクが拭いきれない。それを回避する方法として自転車通勤を始める人が増えている。

 二つ目は、運動不足の解消である。在宅時間の増加で体を動かす機会が減り、健康面を心配した人たちが筋トレやウオーキングに加えてサイクリングを楽しむようになっている。行動範囲が限られるウオーキングは変化が乏しく飽きてしまいがちだが、サイクリングはある程度の遠出ができるので、楽しみが広がり、続けやすい。また、いきなりランニングなどを始めると膝などを痛めるリスクがあるが、自転車なら体への負担も軽いので幅広い年齢層が楽しめる。

 三つ目は、密を避けるレジャーとしての手段だ。キャンプや釣りと同じく、サイクリングをコロナ禍での楽しみの一つとする人が増えているという。

 上記三つの理由を裏付けるような調査がある。au損害保険が2020年10月に調査した「新型コロナ禍における自転車利用についての調査」でも約3割の人が、自転車を利用する機会が増えたと回答している。その理由(複数回答)としては、運動不足解消を挙げた人が約6割、他の移動手段より感染リスクが低い、ストレス解消がともに約5割となっている。

低価格スポーツ車に特需

 自転車も従来のママチャリ(買い物用自転車)や、ロードバイクのような本格的なスポーツ自転車など、その種類は多岐にわたるが、特に人気なのが、初心者でも購入しやすい、5万〜10万円の価格帯のスポーツ向けだ。入荷後に即完売というケースも多く、「在庫がない」とうれしい悲鳴を上げる販売店も少なくない。

 これを受けて、自転車メーカーも動きを見せ始めている。「ブリヂストンサイクルなどは、初心者向けのモデルを手厚くする戦略にかじを切り始めた」(田村氏)。

 また、「e―bike」と呼ばれる、電動アシストの付いたスポーツ自転車も人気を博している。従来のママチャリ型の電動アシスト付き自転車は、これまでも子育て中の母親を中心に人気があった。しかし、最近は蓄電池をフレーム内に収納したスタイリッシュなタイプも登場し、通勤やレジャー用途でも広がりを見せている。

 低価格なものだと10万円台と、ママチャリ型と同程度。1回の充電で走行距離が100キロメートルに達する車種もあり、夫婦やカップルなどで一緒に長距離のサイクリングを楽しめるのがメリットだ。「最近は山を自転車で走るヒルクライムが人気ですが、e―bikeなら女性や年配の人でも気軽にチャレンジできる」(田村氏)。

 政府や自治体も町おこしの一環として自転車ツーリズムを推進しており、コロナ禍でも安全なスポーツとして推奨している。

 たとえば和歌山県では、18年から「WAKAYAMA800モバイルスタンプラリー」を開催している。春〜夏の時期にスタートし、翌年3月下旬まで、ほぼ1年をかけて行われるイベントだ。

 県下に約800キロのブルーライン(サイクリングコース)を整備しており、50を超えるチェックポイントを回り、スタンプを集め、一定数のポイントを集めると自転車や関連グッズなどの賞品が当たるイベントだ。今年はコロナの影響で4月末現在、開始時期は未定となっているが、自分の都合に合わせて挑戦できる手軽さは大きな魅力だろう。

瀬戸内しまなみ海道で行われている「しまなみ海道サイクリング」 愛媛県提供
瀬戸内しまなみ海道で行われている「しまなみ海道サイクリング」 愛媛県提供

 瀬戸内海を縦断する「しまなみ海道サイクリング」も人気だ。瀬戸内海に浮かぶ島々を九つの橋でつなぐルートは、「サイクリストの 聖地」として知られる。

 町おこし関連の自転車イベントは着実に増えており、国内のサイクリングコースの整備も進んでいるという。

必ず「保険の加入」を

 ママチャリとは違って、これまでに挙げたようなある程度高価な価格帯の自転車は、メンテナンスを重ねながらの長い付き合いとなる一台だ。そのため、自分に合う自転車をしっかりと見定めて購入する必要があるだろう。

 田村氏は、「まずは気になる車種を試乗してみる」ことを勧める。ある程度、大型の自転車販売店では試乗車を用意していることも多いので、気軽に問い合わせてみるといい。自動車ディーラーで試乗するように、店舗の周辺1〜2キロを試乗できるので、乗り心地や操作性などを確認できる。

 実際に購入してからは、初心者向けのツーリングイベントに参加してみるのもいいだろう。これも販売店が主催しているケースが多いので、購入店や近くの店舗に聞いてみるといい。

 なお、自転車を始める際は、必ず保険に入ることを心がけてほしい。

 警視庁のデータによると、東京都では20年に1万1443件の自転車事故が起き、交通事故全体に占める自転車関与率が40・6%となった。5年前の15年は32・3%で、1割弱増加していることになる。

 自転車事故は時として、深刻な被害をもたらす。08年、神戸市で11歳の男子小学生が自転車で走行中に歩行中の女性(62歳)と正面衝突する事故が発生、女性は意識が戻らない被害を受けた。神戸地裁は小学生には責任能力がないと判断し、母親に9521万円の賠償命令を下している。

 これを受けて兵庫県は15年10月、全国で初めて自転車損害賠償保険等への加入が義務づけられた。その後、保険の加入義務は全国の自治体に広がり、国土交通省によると21年4月1日時点で加入を義務付けているのは22都道府県・2政令指定都市に上る。

 事故には十分に注意してサイクリングを楽しもう。

(向山勇・ライター)

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