経済・企業半導体 異次元の成長

米国がアジア任せを猛反省、それでも厳しい王者インテル=吉川明日論

    半導体チップを手にするバイデン米大統領。供給網強化の大統領令を出した(今年2月ホワイトハウスで) (Bloomberg)
    半導体チップを手にするバイデン米大統領。供給網強化の大統領令を出した(今年2月ホワイトハウスで) (Bloomberg)

     <第2部 半導体と国家>

    半導体 国内生産回帰の米国 頼みの綱はインテル=吉川明日論

    「くぎ一つないために蹄鉄(ていてつ)が使えなくなり蹄鉄がないために馬も乗れなくなった。行き着いたのは王国の滅亡だった。現代の蹄鉄のくぎとは半導体だ」──。米バイデン大統領は2月、半導体供給網強化に関する大統領令の署名後、手にした小さな半導体チップを掲げ、マザーグースの寓話からこう語った(写真)。

     年初から顕著になった未曽有の半導体デバイスの供給不足を受けて、バイデン氏は精力的に半導体強化に乗り出した。4月にはインテルやグーグル、ゼネラル・モーターズなどの米大手企業や、台湾積体電路製造(TSMC)、韓国サムスン電子などアジアの半導体大手の幹部とのウェブ会議に臨み、直径300ミリのシリコンウエハーを手にして「これが現代のインフラストラクチャーだ」と、戦略的重要性を強調した。(半導体 異次元の成長)

    台湾依存で技術に遅れ

     背景にあるのは半導体製造拠点の現状だ。米国は現在も最終製品のブランド別のシェアでは世界の半導体業界をリードしているものの、インテルを除くとAMD、エヌビディア、クアルコム、アップルなどの半導体ブランドの多くは製品の製造をTSMCなどの巨大半導体ファウンドリー(受託製造)企業に依存。長年業界トップに君臨してきたインテルはあくまでも自社製造にこだわるが、最先端品の製造に必要不可欠な7ナノメートル以下の微細加工技術の開発ではTSMCに大きく後れを取る。加速度的な変化を続ける半導体業界では技術革新でつまずくことは致命傷となる。

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     バイデン政権が神経をとがらすのが世界に拡大した半導体サプライチェーンでの地政学的リスクだ。米中が技術覇権争いで対峙(たいじ)する最前線に位置する台湾のTSMCに製造が集中する現状は、香港に続いて台湾を「一つの中国」に取り込もうとする中国に対峙する米国にとっては覇権争いの象徴的現実である。米インド太平洋軍のデービッドソン前司令官が3月、「6年以内に中国が台湾に侵攻するリスクが高まっている」と議会で証言。世界の半導体製造の中心地となった台湾を取り巻く状況は日増しに緊張を高めている。

     ホワイトハウス主導の半導体強化の動きは、半導体産業の世界的な構造変化と関係がある。米国では水平分業化が加速度的に進み、回路設計に特化する半導体ファブレス企業が隆盛。今回の半導体不足は、製造分野における台湾ファウンドリー企業への依存が許容水準を超えたことの表れだ。

     前任のトランプ氏が輸入関税・禁輸など戦術的な中国封じ策を打ち出したのとは対照的に、バイデン政権は同盟国との関係強化により米経済圏の再構築を図る戦略的な仕掛けといえよう。素材・部材や製造装置、車載用マイコンやパワー半導体のような製品で強みを持つ日本、あるいは先端プロセス技術の開発における最重要装置の露光装置で圧倒的な存在となっているオランダのASML社を擁する欧州とも連携を強化することで中国との対抗軸を再構築する構えだ。

     かつては回路設計、製造技術、製造量とすべての分野で他社を圧倒したインテルはこの数年で技術と量の両面でTSMCとサムスンの後塵(こうじん)を拝している。業を煮やした株主はインテルの絶頂期にCTO(最高技術責任者)を務めたパット・ゲルシンガー氏を復帰させた。既にほとんどの米国半導体ブランドがファブレス企業となった現在、あくまでも自社製造にこだわるゲルシンガー氏率いる新生インテルと、国内投資に500億ドル(約5兆5000億円)の補助を決めたバイデン政権の相性は非常に良いように見受けられる。

    インテルは変身するか

     アリゾナ州に200億ドルを投じて新工場建設を決定したインテルはファウンドリー事業への復帰も表明。バイデン政権の半導体の強化を目的とする政府資金割り当ての方針はインテルの新工場建設には朗報である。自社生産ラインの開放により車載半導体製造を請け負うことを早々と表明したインテルは欧州にも秋波を送る。ゲルシンガー氏はインテルCEO(最高経営責任者)就任後初の欧州訪問で欧州連合(EU)幹部との会合を精力的にこなしEU域内での新工場建設に80億ユーロ(約1兆円)のファンド支援を求めた。

     一連のインテルの行動の成否は、TSMCに後れを取る微細加工技術開発の今後の進展と、顧客となる半導体企業との信頼関係をいかに構築するかに掛かっている。AMD、エヌビディア、クアルコム、ブロードコムなどのファブレス半導体メーカーを取り込む必要があるが、独禁法違反でインテルを提訴したAMDを筆頭に多くのブランドがインテルとは因縁の関係にある。

     TSMCの最大顧客であるアップルはインテルと決別し自社開発の半導体ブランド「アップル・シリコン」を大規模に展開。今後のインテルの顧客獲得への前途は決して容易ではないだろう。

    (吉川明日論・ライター)

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