経済・企業半導体 異次元の成長

EV化で来る、車メーカーが半導体に跪く日=豊崎禎久

    就任会見に登壇するホンダの三部敏弘会長。40年に内燃機関との決別を宣言した(東京都内で) (Bloomberg)
    就任会見に登壇するホンダの三部敏弘会長。40年に内燃機関との決別を宣言した(東京都内で) (Bloomberg)

    半導体 日本の生きる道 産業の主役は自動車から半導体へ スマートシティーで力を結集せよ=豊崎禎久

     ホンダの三部(みべ)敏宏社長が4月下旬の就任会見で、2040年に世界で販売する車両を電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)だけにすると表明したことは画期的だった。スウェーデンのボルボ・カーは3月、30年までに新車販売を全てEVにし、ハイブリッド車も含めたガソリン車の販売をやめると発表。英ジャガー・ランドローバーも25年から高級車ブランド、ジャガーを全面的にEV化すると2月に表明している。(半導体 異次元の成長)

     これらの構想が目標時期に実現できるかどうか予断を許さないとはいえ、発表のインパクトは絶大である。20世紀後半からのモータリゼーションを実現することで社会の進歩を実現してきた自動車産業が、自らを産業界の頂点に押し上げた原動力の内燃機関を手放すというのだ。

     EVやFCVなど、自動車が電気で駆動するようになれば、既存の自動車メーカーが付加価値を生み出せる要素としてはデザインと車体くらいしか残らないだろう。しかも、今後の10年から20年の間にはICT(情報通信技術)は格段に進化することは確実である。自動車は生活や産業におけるモビリティー(移動手段)の一つに位置付けられ、付加価値の大部分を自動運転の制御も含めクラウド型のソリューションが占めるようになる。

    車が潰した国産半導体

     筆者は、年初から続く自動車向けの半導体不足は、近い将来に自動車業界が産業界の「王座」から転落し、半導体、電子産業に付加価値の比重が移動する「主客逆転」を示唆した象徴的な現象だと捉えている。

     ごく最近まで、自動車メーカーは半導体メーカーを、納入業者の一部とみなし、「不良品ゼロ」「短納期の厳守」「継続的な価格の引き下げ」などと無理難題を押しつけてきた。日本の半導体メーカーが疲弊し、世界市場での競争から多くのメーカーが脱落せざるを得なかったのは、自動車メーカーを最優遇してきた日本の産業政策と商習慣の帰結といえるだろう。

     クラウド型ソリューションは、自動運転のほかにも、鉄道など自動車以外の交通、防災や防犯、物流、道路や橋梁(きょうりょう)などの劣化状況の検出といった都市のあらゆる場面からデータを収集し、最適に制御するために稼働する。これらの機能を統合して制御するICTに支えられたデータ連携基盤のインフラを「スマートシティー」と呼ぶ。その内側はAI(人工知能)半導体や、あらゆるサイバー攻撃を防御することができる量子暗号などの電子技術が基盤になるのはいうまでもない。

     技術を継続的に進化させるための人材や資金力などの資源を豊富に持っているのが、米国のGAFAやEVメーカのテスラ、中国のバイドゥやアリババ、テンセント、ファーウェイなどの巨大なICT企業群だ。米アップルによるEV参入の観測が報じられ、「中国版テスラ」の上海蔚来汽車(NIO)や、シャオミ、OPPOなどのスマートフォンメーカーが相次いでEV参入に乗り出しているのは、モビリティー分野の市場の今後の成長性がスマホからICTでつながる機能が強化されたEVにシフトしていることの表れと見るべきだ。

     日本に強みがないかといえば、そうではない。パソコンやサーバー、スマホなどに搭載されるCPU(中央演算処理装置)に代表されるロジック(頭脳)系半導体は弱体化したが、MEMS(微小電子機械システム)によるセンサー群をみると日本は特定分野では強い(図)。TDKや村田製作所、日本電産、オムロン、ロームなどのセンサーメーカーはスマートシティーで必要となるセンサーに強みを持つ。

     この分野では日本は中国企業よりも強みがある。そして世界で最大の需要を見込むことができるのは中国だ。米国に歩調を合わせて日本企業が強みを持つ技術や製品を売り惜しんでいたら、どこに成長の芽を見いだすのだろうか。中国で実績を作れば、人口2・7億人で巨大な需要が見込めるインドネシアにも水平展開できるだろう。

    TSMCの工場誘致を

     半導体が再び脚光を浴びる中、日本の半導体産業を再興せよとのかけ声が、永田町や霞が関方面から聞こえてくる。「TSMC(台湾積体電路製造)に対抗せよ」などと威勢のよい「日の丸ファウンドリー(半導体の受託製造企業)構想」が“亡霊”のようにうごめいていている。先に結論を言えば、もう手遅れだろう。15年前に真剣に動いていれば、TSMCには及ばずとも、台湾2位の聯華電子(UMC)には対抗できたかもしれない。06年ごろ、筆者と親交のある神奈川県の松沢成文知事(当時)から200億円の補助金と、川崎市の工業地帯に10万平方メートルの土地を用意するという話が持ち上がった。NECの半導体部門の経営幹部とも連携し、ファウンドリー構想に奔走したが日本の電機業界が一致団結しなかったため実現しなかった。

     半導体産業を日本で再興するための有効な手段はTSMCの工場を誘致することだろう。同社が今年2月、茨城県つくば市に研究所の設立を決めたのは半導体の後工程であるパッケージング(チップの封止など)で最新の技術を日本から吸収するためだとみている。しかし、より経済的な付加価値が高いのは、シリコンウエハーに回路を形成する前工程の工場を日本に呼び込むことだ。

     台湾ではいま水不足が深刻化しており、台湾海峡を挟んで中国本土との緊張も高まっている。半導体は水を大量に使用する産業であり、日本はTSMCに対して豊富な水と優秀な労働力を提供することができる。世界トップの半導体製造企業であるTSMCを誘致することによって日本人の半導体エンジニアを育成するという10年から20年がかりの長期構想が必要である。

    (豊崎禎久、アーキテクトグランドデザイン・チーフアーキテクト)

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