グーグルのプリン買収、狙いはコロナ後のインバウンドをテコにした“あの市場”
米グーグル(アルファベット)が7月13日、スマートフォン決済のpring(プリン)の買収で主要株主と合意した。日本のスマホ決済は4兆円市場にまで拡大しているがプレーヤーが乱立し、まだ収益化は先だ。プリンの会員数もわずか数十万人。それでもなおグーグルが日本市場への参入を決めた背景には、世界最大のアジアのキャッシュレス決済市場を視野に入れた戦略がありそうだ。
始まりはみずほのスタートアップだった
プリンは2017年5月、みずほ銀行などが出資して設立されたスタートアップ企業。現在は、オンライン決済サービスを手掛けるメタップスが45・3%、中小企業向け会計サービスのミロク情報サービスが22・7%、都市ガス販売の日本瓦斯(ニチガス)が18・6%を保有。3社とも7月13日に全株を売却すると発表した。残りは社員所有とみずほフィナンシャルグループなどが保有している。メタップスの譲渡価格は49憶円で、出資比率から3社の売却総額は108億円。これにプレミアム価格を含め、200億円前後になるとみられる。
Googleブランドで得するプリン
ただ、プリンの認知度は必ずしも高いとはいえず、paypay、楽天ペイ、d払い、Lineペイの会員数が3000万~5000万人いるのに対し、プリンは数十万人でシェアは低い。
一方でプリンからすればグーグルのブランド獲得で一気に認知度を高められる。プリンは銀行口座紐づけで入金し、QRコード決済できるアプリを持ち、若者に人気だ。手数料なしで口座に戻したり、セブン銀行のATMからの送金ができ、提携する銀行はメガバンク3行を含む50銀行を超える。国内のスマホ決済事業者としては珍しくミロクやニチガスを通じて法人サービスも展開する。
200億円はグーグルには「お安い」買い物
市場には「200億円は高すぎる」という声もあるが、グーグルを展開するアルファべットの時価総額は185兆円、メガバンク3行合計の時価総額の10倍以上だ。グーグルからすれば「20億円程度の投資」で世界最大となるアジアのデジタル決済市場に足掛かりをつかんだといえないか。
グーグルペイはまだアリペイの10分の1
グーグルが15年に始めたスマホ決済「グーグルペイ」は40カ国で展開するも月間利用者数はまだ1億5000万人にすぎない。一方の世界最大のモバイル決済大国中国ではアリババのアリペイが12億人、テンセントのウィーチャットペイは9億人の利用者数だ。
見逃せないインバウンド消費は5兆円市場
グーグルが実際に日本のスマホ決済市場に参入するのは22年。ちょうどその頃には日本でインバウンド(外国人の訪日旅行)が復活しはじめる。
コロナ発生前の19年、日本の訪日外国人数は3188万人、消費額は4・8兆円に達していた。昨年はそれが一気に411万人に縮小した。代わって20年の日本ではスマホ決済市場が1年前の3・5倍、4・2兆円に拡大したが、それでもまだ最盛期のインバウンド消費より小さい。
グーグルなら安全保障上の脅威もない?
世界人口の60%、GDPの40%を抱えるアジアの決済ビジネス市場を巡ってはアリペイとウィーチャットペイの中国2巨頭に、アジアでは配車アプリから急成長したシンガポールのグラブ、インドネシアのゴジェックが金融事業に参入した。
これら地域の富裕層が訪日する際、日本の乱立するスマホ決済とグーグルのどちらを選ぶか。グーグルなら安全保障上の脅威も少ない、と考える利用者もいるだろう。グーグルの買収は相当に寝られた戦略的な投資なのかもしれない。
(山本国際コンサルタンツ・山本正行/編集部)