「言論の自由」タテにヘイトスピーチしたがる米国若手保守派
アメリカ 新世代保守によるポリコレ批判本=冷泉彰彦
ドナルド・トランプの下野に伴って、アメリカの保守言論には一時の勢いは見られない。トランプ自身は、2022年の中間選挙でトランプ派候補を多く当選させて復権し、24年には大統領の座を奪還するとして遊説を再開したが、その勢いについては強弱の両面が指摘されている。
そんな中、保守派の論客には世代交代が進んでいる。例えば、政治コメンテーターのマイケル・ノウルズは、1990年生まれで現在31歳、エール大学卒業後は俳優を目指していたが、ポッドキャストなどを使った政治的発言を始めて頭角を現した。2019年に環境運動家のグレタ・トゥーンベリ氏を罵倒したことで謝罪に追い込まれたが、反対にトランプ派の間では人気を得るに至った。やがて、保守派のテッド・クルーズ議員と共同でトランプ弾劾裁判を批判する番組を作ったり、トランプ自身とも懇意にするなど新世代の保守派として注目されている。
そのノウルズによる著作『スピーチレス(言論封殺)、表現のコントロールとマインド・コントロール』が売れている。6月22日に発売されると、ジワジワと順位を上げてアマゾンの「最も売れた本」のノンフィクション部門で3位まで来ている。
内容は、あらゆる表現にポリティカル・コレクトネス(政治的正しさ)が求められる社会に対して不満を書き連ねたものだ。例えば、高齢の女性に対して「妙齢の女性」と言ったり、死亡と言わずに逝去と言ったりするのは相手への敬意や生命の尊厳といった意味や意図があるとして「言い換え」のレトリックを説明。その上で、ポリコレ表現の押し付けには左派思想に洗脳するための政治的意図と悪意があるとして、同性婚やBLM(黒人差別撤廃をめざす運動)などへの反発を延々とつづっている。そして現代というのは、ジョージ・オーウェルが『1984年』で描いた究極の管理社会のように、ポリコレ思想によって言論が圧殺される「モノ言えぬ世界」だとしている。
ノウルズの言う「言論の自由」というのは、つまりトゥーンベリ氏を「自閉症患者」と罵倒する自由が欲しいということで国際的な常識からは論外だ。けれども、分断の進むアメリカの保守の間では、この種の主張が受けるのもまた事実である。
(冷泉彰彦・在米作家)
この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。