日本の先達への敬意も。いまアメリカでブラジリアン柔術がブーム
アメリカ ブラジリアン柔術本格ブーム到来=冷泉彰彦
アメリカにおける格闘技といえば、プロボクシングが花形であるが、その一方でプロレスに関しては、21世紀に入ると、エンターテインメント性の高いWWEがビッグビジネスとなった。一方で、2010年代に入ると、ルールの統一ができた総合格闘技UFCが急成長、WWEをしのぐ勢いとなっている。
そのUFCの成立にあたって中核となり、今でも大きな存在感を持っているのが、ブラジリアン柔術であり、これを牽引(けんいん)したグレイシー一族である。一族の中で特に注目されているのが、無敗伝説を維持したまま引退し、現在は後進の指導に当たっているヒクソン・グレイシー氏だ。同氏がライターのピーター・マクガイア氏の協力を得て執筆した自伝『呼吸 流転の人生』が8月10日に発売され、アマゾンの「最も売れた本」ランキング10位に登場するなどアメリカで話題になっている。
ヒクソン・グレイシー氏が話題になっているのには、この自伝とは別にNetflix製作の映画「Dead or Alive(原題)」のリリースが迫っていることもある。この映画は、ブラジルに柔術を伝授した日本人移民の柔術家の前田光世と、ヒクソン氏の父親エリオ・グレイシー氏に始まるグレイシー一族の伝説を扱っており、本書の共同執筆者であるマクガイア氏は、この映画の脚本も執筆している。
ブームの背景としては、アメリカでは投げ技の危険性を嫌い講道館柔道の普及が今ひとつである中で、寝技中心で護身術の性格の強いブラジリアン柔術が道場数で10倍の人気を誇っていることも大きい。スポーツを扱ったギャンブルが解禁となる中で、エンタメ性の強いWWEよりもスポーツ性のあるUFCへの関心が拡大しているということもある。
更に言えば、アメリカにおける日本やアジアの文化のブームが後押しをしているという評価もできる。本書でも、映画でも前田光世など日本の先人への敬意は強く表現されている。また、ヒクソン・グレイシー氏は、近年はヨガへの造詣も深めており、元来が講道館柔道以上に防御的であった柔術への姿勢を、より瞑想(めいそう)的、平和的な思想へと深めている。そうした精神性が現代のアメリカでは歓迎されているということもあるだろう。
(冷泉彰彦・在米作家)
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