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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

日本のアルプス/3 プレートがダブルで高山形成/66

 前回まで南アルプスと北アルプスの地質について説明してきたが、日本列島の中央にこのような高い山脈がなぜできたのかを考えてみよう。結論としては、地表を覆うプレート(岩板)の移動が引き起こす地殻変動「プレート・テクトニクス」の結果であり、南北アルプスは驚くほど隆起率が大きいのである。

 現在、南北アルプスをなす中部山岳の下には、フィリピン海プレートと太平洋プレートという二つのプレートがゆっくりと沈み込んでいる(図)。かつて海だった南アルプスをここまで隆起させたのは、フィリピン海プレートが絶え間なく押し続けてきた力である。

 今から100万年ほど前、フィリピン海プレートの北端にある伊豆半島が本州に衝突した。古い火山の堆積物(たいせきぶつ)からなる伊豆半島は、本州の下に沈み込むことができずに丹沢山地を押し上げたのである。

 南アルプスの隆起もこのころから始まり、現在も延々と続いている。そして、本連載第64回でも紹介した南アルプスの赤石山地は、1年間に4~5ミリも上昇しており、実は日本一の速さなのである。

 次に、北アルプスを主に隆起させたのは、もう一つの太平洋プレートである。やはり100万年ほど前から沈み込み運動が激しくなり、北アルプスを絶え間なく押し上げた。その速度は身近な例で言えば爪が伸びる程度の速さだが、南北アルプスともに造山運動は現在まで活発であり、さらに山が高くなりつつある。

まだ続く隆起&浸食

 さて、山岳では隆起が続く一方、その脇では谷がどんどん浸食される。特に、北アルプスのように急峻(きゅうしゅん)な山脈が連続する山地では、削られる速度が速い。その一方、同じ巨大な山でも山容が丸まった形の「曲隆(きょくりゅう)山地」では、浸食の速度はやや遅くなる。こうした結果、同じようにプレートの沈み込みによって上昇する山地でも、高さや地形に変化が生じるのである。

 地質学的な長い時間で見ると、山は決して安定していない。一般に高い山岳には、風雨によって削られる力がより強く働く。そして北アルプスに見られる谷と峰の美しいコントラストは、過去の大規模な氷河が削ったものである。すなわち、中部山岳の山は高くなったり削られたりのイタチごっこをしていると言っても過言ではない。

 では、日本全体で山を見た場合、なぜ中部地方に3000メートル級の高山が突出して多いのだろうか。それに対する仮説が、プレート・テクトニクスから導かれる。

 北海道・東北・九州では、太平洋プレートかフィリピン海プレートのいずれか一つが沈み込んでいる。それに対して、中部山岳の下では両方のプレートが沈み込んでいる。つまり、ダブルで山を持ち上げているため、南北アルプスは日本屈指の高山地帯となったと考えられている。

 太平洋プレートは約2億年前に誕生し、フィリピン海プレートは約2000万年前から沈み込み活動を継続してきた。おそらく将来も数百万年単位では、南北アルプスの隆起と浸食はずっと続くに違いない。


 ■人物略歴

鎌田浩毅(かまた・ひろき)

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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