苦境に立つ銀行業の打開には新たなリスクテイクを=評者・土居丈朗
『地域金融の経済学 人口減少下の地方活性化と銀行業の役割』 評者・土居丈朗
著者 小倉義明(早稲田大学教授) 慶応義塾大学出版会 2970円
苦境にさらなる追い打ち コロナ後の活路を探究
人口減少と経済規模縮小により、地域金融機関は厳しい経営環境に置かれている。それは、新型コロナウイルスの感染拡大前からだったが、コロナ禍や昨今の激甚災害が追い打ちをかけているかのようである。
ただ、それは、我が国の地域金融ならではの問題なのか、それとも目下、激変している金融技術の世界的な発展によって銀行業が苦境に立たされているがゆえの問題なのか。
本書は、フィンテックの動向にも目配りしながら、地域金融が直面する現状と、今後の活路について探究している。
本書の論旨は明快だ。複数の既刊の学術論文などで裏打ちしつつ、地域金融機関が置かれた環境を確認するとともに、地域金融が低迷する要因を分析して、悪い現状を打開する方策に示唆を与えている。
生産年齢人口の減少や、イノベーションの停滞が、自然利子率(経済・物価に対して引き締め的でも緩和的でもない中立的な実質金利の水準)を押し下げた結果、市場金利を引き下げる方向で中央銀行の金融政策が採られた。これが長期にわたったため、低金利状態によって預金と貸し出しの金利差である利ざやを収益源とする銀行業は、苦境に立たされた。
特に、我が国の地域経済において、生産年齢人口の減少は、今後も数十年にわたって続くことが見込まれるうえに、それを打ち消してあまりあるほどの効果を持つイノベーションがない限り、地域金融機関の利ざやが回復することは容易ではない。
では、地域金融機関に活路はあるのか。少なくとも、今後は今までよりも追加的なリスクを取って収益を上げることが必要、と著者は説く。ただ、本書が示すように、自己資本比率が低いなど経営状況が悪い金融機関ほど、有価証券の海外運用を拡大するなどより高いリスクを取る性質も現状では持ち合わせている。
リスクマネーの供給と預金の管理のバランスは非常に難しい。それゆえ、リスクテークとともに、異業種との連携や、経営統合によるコスト効率性の向上も重要であることが、本書の分析からもうかがえる。
コロナ対応として、地域金融機関により企業への大規模な資金繰り支援が行われた。これによって、当面の経営が維持できた企業は多い。しかし、コロナ後に、デットオーバーハング(過剰債務)が我が国経済の回復を阻まないようにしなければならない。本書からは、コロナ後の地域金融を考える上でも、多くの示唆が得られる。今から、その備えが欠かせない。
(土居丈朗・慶応義塾大学教授)
小倉義明(おぐら・よしあき) 1973年生まれ。京都大学法学部卒業後、コロンビア大学大学院博士課程などを経て早稲田大学政治経済学術院准教授から現職。2017年、第5回日本ファイナンス学会丸淳子研究奨励賞受賞。