中古マンション市況がこれからも落ちにくいワケ=長嶋修
コロナでも「投げ売り」起きず 好立地の物件に需要が集中=長嶋修
<第2部 活況!中古市場>
中古マンション市場が空前の活況を呈している。東日本不動産流通機構によれば、今年7月の首都圏(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)の中古マンション市場の成約単価(1平方メートル当たり)は、60・71万円と前年同月比8・4%上昇した。また、成約価格も7・9%上昇の3913万円となり、単価も成約価格も過去最高を更新している。(変わる!マンション管理)
中でも、東京都心3区(千代田、中央、港)の上昇は顕著で、成約単価は130・05万円と前年同月比8・3%上昇、成約価格も12・1%上昇の7623万円と、ひと昔前の常識ではおよそ中古マンションとは考えられない水準に達している(図1)。新型コロナウイルス禍の中にもかかわらず、なぜこれほど中古マンション市場が上昇しているのだろうか。
昨年4~5月の緊急事態宣言中は取引自体がストップし、地域にもよるが成約数は一気に前年同月比40~50%減に落ち込んだ。一時は「ついにバブル崩壊か」「リーマン・ショックの再来」と騒がれたが、かつての経済危機と今回が異なった点は「投げ売りが起きなかった」ことだ。
2008年のリーマン・ショックでは、新築マンションのデベロッパーが数カ月前から窮地に追い込まれ、資金繰りに窮して1000万円単位の値引きをした。それでも間に合わず複数のデベロッパーが破綻し、狼狽(ろうばい)した個人も中古マンションを次々と値引き販売するといった負の連鎖が生じ、市場は際限のない不調に見舞われた。
しかし、今回は売買を一時的に控えたにとどまった。新築マンション販売のモデルルームを閉鎖し、大半が個人売り主・買い主である中古マンション市場も様子見で一時的に売買を控えた。そして、緊急事態宣言が明けた昨年6月には、たまっていた需要が噴き出すように取引が再開され、市場は通常モードに戻った。
地方移住は起きず
「在宅勤務(リモートワーク)の普及で郊外に人が移動する」といった予想も大外れとなった。一部には地方に移住するといった動きもあったが、それらは限定的だった。都市郊外に逃れたところで、郊外の街にも人があふれており、感染対策にはならなかった。
そもそも近年は夫婦共働き世帯が非常に多く、在宅勤務といっても、週に数回は出勤するケースがほとんどだ。通勤以外に、人が生活していく上で必要な生活利便施設は都心近くにあり、かつ駅の近くにある。首都圏では若年世帯であるほど自動車保有比率は低く、居住快適性を多少我慢しても「都心からの距離」「駅からの距離」を求めるようになっている。
コロナ以降はさらにその傾向が強まっており、「駅から徒歩15分の100平方メートルの物件より、徒歩3分の70平方メートル」といったニーズが高まっている。最近の東京都への人口流入は、大半が外国人の流入で説明でき、東京23区から神奈川県など郊外への人口流出は、このところの不動産価格の高騰を嫌う動きだと説明できるだろう。
「クルマの自動運転が普及すれば郊外に人々が移住する」といった見通しも外れている。現在の自治体は一定の人口密度を保たなければ、上下水道などの生活インフラを維持できない。例えば、典型的なベッドタウンといわれる埼玉県新座市は、将来の人口減少予測から、持続的な自治体経営ができないとして、「財政非常事態宣言」を出した。人口減少社会での自治体経営は、なるべく駅に近い場所に集住してもらい、経営効率を高めるしかないのだ。
中古マンション市況の高騰は、新築マンションの発売戸数が激減したことによる影響も大きい。01年に首都圏で約8・9万戸だった新築マンション発売戸数は、20年には約2・7万戸に減少している。販売時価総額も01年は3・6兆円だったのが、20年は1・6兆円まで減少した。
これは「駅前・駅近・駅直結」「大規模」「タワー」といったワードに代表される高額物件が主流となる一方で、「都心から遠い」「駅から遠い」といった相対的に割安な新築物件が激減しているためだ。加えて、最近では「中古」に対する抵抗感も少なく、好み通りのリフォームやリノベーションを施すといった動きも顕著だ。
日経平均株価と連動
さらに注目したいのは、中古マンション在庫が激減している点だ。これには二つの理由がある。一つ目は「住まいを賃貸から購入にする動き」だ。コロナ禍で在宅勤務が増えたことで、住居の見直し機運が高まっている。ファミリー層向けの賃貸住宅は2DK~3DKが中心で、建物グレードも分譲マンションに比べて低い。
一方の金利は、変動金利で0・41%、固定金利で0・87%(いずれも住信SBIネット銀行の今年8月調べ)という超低金利に加え、住宅ローン残高の1%が戻ってくる所得税の住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除、期間最長13年)といった特典もある。こうしたメリットを活用して、賃貸より間取りが多くグレードも高いマンションを買おうという動きが出始めている。
二つ目は、「買い替え層が動かない」という点だ。過去10~20年に、好立地のマンションを購入した層は、今売れば多額の売却益が出る可能性がありながらも、買い替え先の物件も高値という状況にあり、現在の住まいに満足している人も多く、中古物件が市場になかなか出てこない。
不動産価格の決まり方にはさまざまな要素があるが、結局は需給バランスが大きな要素になる。中古マンションの購入希望者が多い一方で、売り物件が少なければ、価格は維持・上昇しかない。現在、中古マンションの取引現場では、人気物件が売りに出ると2ケタの購入申し込みが入り、新築分譲時の価格より高く買いたいとの申し出があることも。これを業界では「買い上がり」と呼んでいる。
東京都の中古マンション市場のうち、都心3区に加え、同7区(新宿、渋谷、目黒、品川区)の成約単価は、おおむね日経平均株価と連動する(図2)。中古マンション市場の行方を占うのは、株価動向を占うのとほぼ同義と言っていいだろう。仮に、株価が現在の水準を継続するなら、在庫の減少傾向が止まるまで、価格は維持ないしは上昇すると思われる。
ただし、中古マンション価格は、都心から離れるほど株価との連動性は薄れる。1990年代のバブル経済崩壊前後の日本の土地総額は約2000兆円だったが、現在は約1000兆円にすぎない。一方で、都心の好立地マンションの価格上昇は止まらない。不動産市場は極端な二極化が進行している点も踏まえておく必要がある。
(長嶋修・さくら事務所会長)