全居住者必見! マンション管理の新制度 来春スタートのインパクト=中園敦二/和田肇
管理を評価する新制度 来春開始で資産価値左右=中園敦二/和田肇
「マンション管理組合の理事3人のうち、2人が中国人、1人が居住していない80代の高齢者。管理規則は日本語だから外国人は読めないし、総会を開いて住民との基本的なコミュニケーションもとれない」──。(変わる!マンション管理 特集はこちら)
東京23区内にある築40年の5階建てマンション(39戸)の管理組合は、機能不全に陥っていた。関係者によると、理事は輪番制で決めていたが、理事になりたくない所有者は年2万円の“ペナルティー”を支払えば、管理組合はそれを支払わない所有者に任せっきり。関係者は「軽い認知症の高齢者も居住している。大規模修繕の時期だが、管理組合の通帳には数百万円しかない」と嘆く。
マンションコンサルティング「別所マンション管理事務所」の別所毅謙代表は「中流層の中国人など外国人が『日本のマンションは安い』と購入するケースが増えている。部屋を改装すれば、築40年でも飛ぶように売れていく。所有者が急速に“グローバル化”しているのが日本のマンションの現状だが、管理体制が追い付いていない」と指摘する。
区分所有者同士の“運命共同体”であるマンションには、いまや国民の8人に1人が住むと言われる。所有者・居住者の高齢化とマンション自体の高齢化という「二つの老い」への直面が大きな課題として指摘されてきたが、さらに今、「所有者・居住者の多様化」や相続未登記などにより所有者が誰なのか分からなくなる「所有者不明化」も加わり、管理組合の運営が難しさを増している。
築40年超が増加の一途
国土交通省によると、分譲マンションは増加の一途をたどり、2020年末の戸数は累積で675・3万戸(図2)。築40年超のマンションは2020年末現在の103・3万戸だが、20年後には約3・9倍の404・6万戸となる見通しだ(図3)。また、1990年代以前に建てられたマンションでは居住者の半数が60歳以上と(図4)、マンションを巡る問題は今後、さらに深刻化することは想像に難くない。
ひとたびマンションが管理不全に陥ると、問題は区分所有者や居住者のみにとどまらない。外壁が落ちたりすれば周辺住民にも危険が生じ、“スラム化”すれば治安も悪化しかねない。また、自治体が建物を強制的に取り壊さざるをえなければ、その負担は広く納税者全体にも及ぶ──。こうした問題に対処するため国も本腰を入れ、昨年6月に改正マンション管理適正化法と改正マンション建て替え円滑化法が成立した。
改正管理適正化法の目玉は、来年4月から始まる予定の「管理計画認定制度」だ。地方自治体がマンションの管理状況をチェックし、基準をクリアした管理組合を「認定」する一方、クリアできなかった管理組合には助言や指導、勧告も可能とする。同時に、改正建て替え円滑化法により、老朽化したマンションを建て替えやすくするため、建て替え時に容積率緩和の特例を受けられる条件も緩和した。
区分所有法も見直しへ
マンションは区分所有者の所有物であり、これまでは区分所有者の責任で管理することが大前提だった。しかし、いまや区分所有者任せでは手に負えなくなる時代となり、行政が管理不全に陥りそうなマンションを見つけ出して改善を促す方向へと転換した。早稲田大学法科大学院の鎌野邦樹教授は「国・地方自治体が踏み込んで、マンションの管理について積極的に関与する基盤が作られた」と評価する。
マンション建て替えのハードルをさらに引き下げられないかと、区分所有法の見直しに向けての検討が始まっている。有識者や法務省、国交省、最高裁も加わって今年3月、「区分所有法制研究会」が発足した。現行の区分所有法では建て替えの決議には5分の4以上の賛成が必要だが、所有者・居住者の高齢化が進んだりするとこの要件でも合意形成が難しいため、要件緩和などの方策の研究を重ねる。
管理計画認定制度が開始する一方、管理会社で作るマンション管理業協会も来年4月から、管理状況を点数化して5段階で評価する「管理適正評価制度」を始める。管理の優れたマンションを高く評価することで、中古マンション市場で資産価値の向上を見込む。横浜市立大学の斉藤広子教授(不動産学)は「『マンションは管理を買え』と言われてきたが、(これらの制度によって)管理状況が市場で評価されるようになる」と話す。
「人任せ」では……
中古マンション市場ではこれまで、価格や立地、築年数、広さや間取りなどばかりが注目され、管理組合の運営や修繕積立金の状況などはすぐには表に見えにくかった。それゆえ、中古の購入に二の足を踏み、新築を選ぶ人も多かった。マンション管理が客観的に評価される時代になれば、そうした構造が一変する可能性を秘める。裏返せば、管理の状況が資産価値を大きく左右することにもなる。
管理組合活動を「できればやりたくない」と感じるマンションの所有者は少なくない。しかし、今後は管理組合が外部からチェックされ、評価される時代へと大きく変わる。ひとたび管理不全の“烙印(らくいん)”を押されれば、次の世代に負の遺産を残してしまいかねない。マンション管理はもはや人任せではすまなくなっていることを、所有者や居住者が認識する必要がある。
(中園敦二・編集部)
(和田肇・編集部)