書籍コードを使い、東京創元社が紙+電子で文芸誌創刊=永江朗
東京創元社が総合文芸誌『紙魚(しみ)の手帖』創刊=永江朗
最近は雑誌というと、休刊・廃刊や発行回数の変更、紙版からの撤退とウェブへの移行などのニュースが多かった。久しぶりに新雑誌創刊の話題、それも総合文芸誌の登場だ。
創元推理文庫などミステリー小説の出版で知られ、鮎川哲也賞なども主催する東京創元社から、10月12日、『紙魚の手帖』が創刊された。2021年2月号をもって休刊した『ミステリーズ!』の後継誌ではあるが、『ミステリーズ!』がタイトルの通りミステリー専門誌だったのに対し、『紙魚の手帖』はミステリー、SF、ファンタジー、ホラー、一般文芸などオールジャンルの文芸誌を目指すという。偶数月の隔月刊である。
創刊号では第31回鮎川哲也賞の選評、第18回ミステリーズ!新人賞の受賞作と選評を掲載している。「三人書房」でミステリーズ!新人賞を受賞した柳川一は1952年生まれの69歳ということで話題になった。
また、本格ミステリ大賞の全選評は同賞の創設以来『ジャーロ』(光文社)が掲載してきたが、第21回の今年度より『紙魚の手帖』に移籍した。ちなみに『ジャーロ』は『EQ』の後継誌で15年の秋冬号から電子媒体のみでの発売となっている。
『紙魚の手帖』という雑誌名は、80年代に東京創元社が発行していた投げ込みチラシの名前から。投げ込みチラシとは、昨今のポスティングとは違い、書籍に挟み込むPR媒体のこと。旧『紙魚の手帖』はB4判八つ折りで、新刊案内だけでなく、エッセーや映画評・レコード評、詰め碁、読者からの投稿なども載る充実したものだった。現在でも古書店でたまに見かける。
『紙魚の手帖』の特徴は、『ミステリーズ!』と同じく雑誌ではなく書籍のコードで流通させていることだろう。雑誌コードの場合は発行形態によって販売期間(返品可能期間)が決まっているが、書籍コードならバックナンバーも息長く売ることができる。読者層が限定され、必ずしも全国一斉に大量部数を短期間で売らなくてもいいものなら、書籍コードのほうが向いている。また、『ミステリーズ!』は紙版のみだったが、『紙魚の手帖』は電子書籍版も同時に配信している。これからの雑誌の新しい形態といえるかもしれない。
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