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<動画も公開!> "ホントに使える”マグネシウム電池が登場 次世代バッテリーの本命は循環社会への切り札

    マグネシウム電池を持つ矢部氏 撮影:武市公孝
    マグネシウム電池を持つ矢部氏 撮影:武市公孝

    電池の本命 理想の“循環社会”引き寄せる「矢部式マグネシウム電池」=浜田健太郎

    「照明用なら5時間、キャンプ用の携帯用冷蔵庫なら8時間は稼働する。このサイズや重さでこれだけの電力量を供給できる電池はこの世の中には存在しない」──。東京工業大学名誉教授の矢部孝博士は強調する。(脱炭素・DX 技術革命)

     10月、矢部氏は自ら発明したマグネシウム空気電池(燃料電池の一種)の性能を編集部の面々に見せてくれた。電池は、樹脂の筐体(きょうたい)(幅16・3センチ、奥行き23・7センチ、高さ9・7センチ)の中にあるスペーサー(正極と負極の間を仕切る部材)に、不織布に収められた薄いマグネシウムのシート12枚を挿入。マグネシウムを負極に、正極に炭素系材料を用いる。これを電解液の塩水に浸してその化学反応によって電気を取り出す仕組みだ。水道水を電池に注入するとシートが数秒で水を吸い上げ、照明器やドローンに給電を始めた(「週刊エコノミストオンライン」に動画掲載)。注水後の重量は約2キロで、出力は最大で250ワット。中型の家庭用冷蔵庫でも1時間は給電できるという。電池は5個、10個と連結することで、さらに大きな電力が必要な機器への給電も可能だという。

    先行品とは桁違いの性能

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     矢部氏が開発した電池はマグネシウム電池としては世界初ではない。先行して商品化された製品のうち、ある上場企業が販売する製品(注水後約3・6キロ)は最大出力が6ワット。また、別の企業が販売している製品(注水後約4キロ)で最大出力は25ワット。つまり、性能は矢部氏の電池が既存製品を大幅に上回っている。

     既存製品と「矢部式マグネシウム電池」に大きな違いが出る理由は、「スペーサー」の構造にあるという。矢部式電池は、内部に正極と負極がずらっと並ぶ構造になっており、これではショートが起きてしまい、使い物にならないというのが電池技術者の常識だった。矢部氏は、スペーサーの構造を工夫して大きな電流を流してもショートが起きない仕組みを考案した。日本、米国、中国で特許を取得済みだ。

     矢部氏は「先行して製品化されたマグネシウム電池の性能があまりにもお粗末なので、一般の理解や関心が広がらなかった。だからまずは製品を作って世の中に問う必要があった」と話す。今回、矢部氏が見せてくれた製品は、矢部氏の個人企業「シーアイピーソフト」(東京都北区)が協力工場を通じて製造するという。

     矢部式電池の価格は筐体とマグネシウムのシート60枚入りのセットで13万5000円。災害時などの非常用電源として地方自治体、建設現場の夜間工事用として建設会社などから引き合いがあるという。東京・台場で開かれた展示会「脱炭素経営EXPO」(9月29日~10月1日)で、エネルギー関連企業の「さつき」(本社・大阪市)のブースに出展。その場で購入を確約する人もいたという。

     矢部氏は、当初は非常用電源などの用途で売り出す一方、いずれはドローンやEV(電気自動車)用の実用化を視野に入れている。ドローン用は、円盤形のマグネシウムをモーターで回転させ、マグネシウムが反応を終えると、反応部分を入れ替えて新しい燃料が供給される仕組みを取り入れる。これも米国で特許を取得済みだ。

     実用化で大きく先行したリチウムイオン電池に対する優位性は、エネルギー密度が高いことだ。「同じ重量のリチウムイオン電池に比べ矢部式マグネシウム電池は8・5倍ある」(矢部氏)ため、現行だと30分程度が限界のドローンを数時間飛ばすことが可能になり、物流や農業などの用途が拡大すると想定する。

     長期的な視野で考えると、マグネシウムは資源量が圧倒的に豊富で枯渇の心配が少ないことが特筆される。希少金属のリチウムに対してマグネシウムは海水に約1800兆トンも含まれているからだ。

     現状ではパソコンやカメラのボディーなどに使われており、日本は主に中国から輸入している。現行のマグネシウムは原料のドロマイト鉱石を製錬する際に大量の石炭を使うため、脱炭素化にはまったく寄与しないが、矢部氏が発明した、海水からマグネシウムを取り出す淡水化装置を用いると様相は一変する。

     現在の淡水化装置の主流である「逆浸透膜方式」だと、真水を取り出した後に塩分濃度が極めて濃い「ブライン(懸濁液(けんだくえき))」という有害物質が残り、海洋や土壌に不適切に投機される環境汚染が地中海沿岸などで起きている。矢部氏が開発した淡水化装置は、そのブラインから大量の塩とマグネシウムを取り出すことができるという。

    レーザー精錬で再利用

     マグネシウムは電池で反応を終えると酸化マグネシウムになり、これにレーザーを照射すると酸素が分離してマグネシウムに還元される。当面は、半導体レーザーを用いるが、元々はレーザー技術が専門の矢部氏は太陽光をレーザーに変換する装置も発明している。

     矢部氏が開発した電池、淡水化装置、太陽光レーザー装置は、「究極のエネルギー・リサイクルシステム」を実現する可能性を持っている。それが図だ。まず、独自開発した淡水化装置で海水からマグネシウムを取り出す↓それを矢部式マグネシウム電池として利用する↓太陽光レーザーでリサイクルする、という再生可能エネルギーの理想的な循環社会に、人類は大きく近づくことになる。

    中国のベンチャーが関心

     矢部氏は4月、ジー・スリーホールディングス(HD)の協力を得て開発、販売に乗り出すと明らかにした(本誌4月27日号参照)。ジー・スリーHDは5月11日、マグネシウム電池の開発・販売を始めると発表したが、「同社とは特許のライセンス契約に至っていない」(矢部氏)という。

     現在、矢部式マグネシウム電池には、電動バイクを開発中の中国のベンチャー企業も強い関心を示しているという。

    (浜田健太郎・編集部)

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