自費出版のハードルがグンと下がる。アマゾンの新サービス=永江朗
永江朗の出版業界事情 アマゾンジャパンが個人出版サービス開始
アマゾンジャパンは10月19日から、個人の出版サービス(紙版)を開始した。これまで同社は個人がキンドル・ストアで電子書籍を出版できるキンドル・ダイレクト・パブリッシング(KDP)というサービスを提供してきているが、今回、さらに紙でも本を出版・販売できるようになった。
KDP紙版は注文に応じて印刷・製本するプリント・オンデマンド方式のため、著者(出版者)は在庫を持つ必要がない。また印刷・製本にかかる費用はロイヤルティー(著者の取り分)から引かれるので、事前に支払う必要もない。個人で本を出すにはきわめてハードルが低い。
もっとも、KDP紙版がスタートしたからといって、一般の書店や出版社に与える影響はごく小さなものだろう。一部の同人誌コミックなどを例外として、書店における自費出版書籍の売り上げは微々たるものにすぎない。
ただ、自費出版ビジネスへの影響はある程度あるかもしれない。既存の自費出版に比べると、KDPはきわめて明瞭だからだ。価格設定は著者。ロイヤルティーは基本的に電子版は70%、紙版は60%(販売方法によって変化あり)。紙版の印刷・製本コストはページ数やインクの種類によって決まっている。
たとえば110~828ページの本を黒インクで印刷する場合、固定費が1冊175円で、ページ当たりの加算が2円。仮に256ページの本であれば687円。これがロイヤルティーから引かれても黒字になるよう、自分で価格を設定すればいい。オンデマンドなので、買いたいという人が現れなければコストは生じず、アマゾンへの支払いもない。
従来の自費出版ビジネスのなかには、印刷・製本のコストや、書店への営業活動、作った本の所有権などが曖昧だったり、客(依頼者)側へ十分な説明がなされない事例もあった。「自費出版で本を出してはみたけれど不満が残る」という声をときどき聞く。KDPの紙版はそうした人々には魅力的だ。
なにしろアマゾンという巨大書店とダイレクトにつながっているのだから。プロ作家にも利用は広がるだろうか。
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