教養・歴史書評

『ネクストカンパニー 新しい時代の経営と働き方』=評者・藤原裕之

    著者 別所宏恭(レッドフォックス代表取締役社長) クロスメディア・パブリッシング 1628円

    大量生産の20世紀と決別を指南 「高く売る」ための情報活用とは

    「いいものを、安く、大量につくって売る」。大量生産によるコスト削減を前提とした20世紀型のビジネスモデルの限界は明白だ。にもかかわらず多くの日本企業はいまだその呪縛から逃れられないでいる。本書は20世紀型のビジネスモデルに決別を迫り、2020年代を生き抜くための新しいビジネスのあり方や、働き方について記した一冊だ。

     本書のメッセージは明快だ。日本企業はコスト削減や行き過ぎた最適化から脱却し「高く売る」ことに知恵を絞る。「労働力人口の減少」×「1人当たり労働時間の減少」×「労働者年齢の上昇」により、日本ではもう「高品質で安く」はつくれない。まずはこうした現状認識を持つべきと主張する。

     では「高く売る」ためには何が必要か。著者は「質の高い情報を活かし切ること」だという。質の高い情報は現場からしか得られない。現場に足を運んで顧客の声に耳を傾けるなかで自分と顧客の「価値観の差」を発見し、それが商品開発へとつながる。これは現状では「人間にしかできない」。

     著者は価値観の差を発見するカギはオフィスにあるという。多様な人材が集まって議論やブレーンストーミングをすることで新しいアイデアが生まれる。オフィスは利益の源泉たる「何をつくるか」「何を伝えるか」というアイデアを生む企画の場となる。コロナ禍の今だからこそオフィスでの直接「対話」の重要性を説く。

     著者はまた、情報を入手する場と同じくらい重要なのが「文化」を学べる場だと主張する。どれだけ現場に足繁く通い、顧客の声を聞き、オフィスでディスカッションを重ねても、文化に対する知識や理解がない人は視界に入っているヒントに気付かず、質の高い情報は得られない。近年ビジネス界でアートへの関心が高まっているように、さまざまな文化に触れ、優れた主観を磨くことがいかに重要であるかが理解できる。

     その他にも「コロナ禍の地方移転をどう考えるべきか」「ビジネスパーソンが磨くべきは検索力」「スマートグラス時代のビジネスの在り方」など、「高く売る」ためのユニークかつ本質を突いた視点が豊富だ。

     著者は下請け時代に会社が潰れかけた経験を持つ。本書の実例の豊富さと洞察力の高さは厳しい試練を乗り越えてきた著者自身の実体験から来ているのだろう。20年代を生き抜く次世代の「ネクストカンパニー」の姿は未来予想を超えた手触り感をもたらしている。

    (藤原裕之・センスクリエイト総合研究所代表)


     別所宏恭(べっしょ・ひろゆき) 1965年生まれ。横浜国立大学工学部中退。独学でプログラミングを学び、レッドフォックス有限会社を設立。株式会社に変更後、代表取締役社長に就任。モバイルを活用した汎用プラットフォームを提供している。

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