教養・歴史書評

中国 孔子学院、融和目指す「本土化」とは?

 1990年あたりまでだっただろうか、日本で使われていた中国語教科書には、中国の政治が色濃く反映されていた。例えば昔からの敬称「先生(シェンション)」や「小姐(シャオジエ)」ではなく、社会主義調の「同志(トンジー)」が幅を利かせ、「人民公社」とか、その前身の「合作社」なども登場し、言語学習というより中国政治の理解を促すものとなっていた。だが最近の中国語教科書を手に取ると、こうした政治用語は一切登場せず、「無色」な内容になっていることに驚かされる。外来語から来た「AA制(割り勘)で食事に行く」などかつてはありえなかったような若者言葉まで出てくる。うっかりすると中国が共産党を頂点とする社会主義体制であることすら知らないまま学習を続けることになるかもしれない。

 一方、中国政府が中国語と中国文化の普及を目的として西側世界で推進してきた「孔子学院」は、米国、カナダなど諸外国で、学問の自由へ介入するものとして警戒や反発が強まり閉鎖されるところも出ている。中国政府はその動きに反発するとともに、孔子学院を現地社会に溶け込ませる摩擦の回避策(すなわち「本土化」)にも腐心している。邢清清(けいせいせい)編『孔子学院本土化問題研究』(2020年、中国社会科学出版社)は、カナダなどでの孔子学院運営を踏まえた中国でのセミナーをもとに、受け入れ母体となる現地の教育機関や地元社会との摩擦を避けつつ、孔子学院を現地に溶け込ませる対応策について見解をまとめている。

 実は15年ごろから中国の在外公館の教育担当官が一斉に孔子学院の「本土化」を重視すべきだとのコメントを述べ始めていた。同書の出版も、学院をめぐる国際的摩擦が激化するのを放置できなくなった北京当局の路線修正の一環であろう。もちろん孔子学院の現地との融和は結構だとしても、最近のチベット、新疆ウイグル自治区での民族政策や、香港での国家統制の強化など、こわもての中国の状況から見ても、孔子学院に派遣された中国人教員と「本土」の教員や研究者との実りある学術交流が可能だとは到底考えられない。問題は孔子学院の「本土化」以前に、中国の対外姿勢の正常化が必要なことではないだろうか。

(辻康吾・元獨協大学教授)


 この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

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