教養・歴史書評

データが突き付ける日本の厳しすぎる現実=評者・池内了

『「日本」ってどんな国? 国際比較データで社会が見えてくる』 評者・池内了

著者 本田由紀(東京大学大学院教授) ちくまプリマー新書 1012円

議員、管理職の女性比率など 「世界トップ」の厳しい現実

 何かコトがあるごとに、世界の趨勢(すうせい)と比較して日本は世界第何位であるかを調べた報道を目にする。統計の順位がずいぶん下位の場合、嫌な気分になる。しかし、「さもありなん」とも思え、日本は何と度しがたい国だなと突き放したくもなる。とはいえ、今のような日本にしたのは自分たち大人で、若者までもが下位のランクで満足するようになってはいけないな、と思う。このように国際比較データを見ることは、自分たちの生きざまを客観視する機会になるという良さがある。

 本書は、中高生向きに、家族、ジェンダー、学校、友だち、経済・仕事、政治・社会運動、「日本」と「自分」、の七つの章に分けて、さまざまな統計データを提示しながら、日本に生きている私たちの現在をあぶり出し、どのように考え実践していくべきかを語ったものである。「報道の自由」では何位、「女性の政治進出」では何位との断片的な結果ではなく、系統的に多数のデータを集めて日本の後進性や特殊性を示しているから、現代社会が生み出している問題点や偏りが浮き彫りになって見える。現実を直視する意味で、むしろ大人こそ読むべき本である。

 ここでは、本書に示された多数の統計データのうち、日本が世界の潮流から外れてダントツ最下位にある項目を列挙しておこう。日本が世界の「トップ」を走っている分野である。(1)国会議員および企業の管理職に占める女性比率、(2)男性の1日当たりの無償労働時間(家事)、(3)1学級当たりの平均生徒数、(4)中学教員の週当たり労働時間、(5)学校内外におけるICT(情報通信技術)の活用の度合い、(6)求めるスキルを持つ人材が採用できないと回答した企業の比率、(7)「家族以外の人」と交流のない人の割合、(8)1週間当たりの社会的交流時間、(9)「暮らし向きの良い人は、経済的に苦しい友人を助けるべきだ」への賛成数、(10)GDP(国内総生産)に占める労働市場政策への公的支出、(11)高校1年生への「生きる意味」の問いに対する虚無的回答、(12)「親世代より生活水準は上がるだろう」に対する若者の否定率──である。実に多岐な面で、日本は世界の潮流とは明らかに違った道を歩んでいることが分かる。

 私は何もかも国際標準にならうべきだと思っているわけではない。軍事費の少なさなどは世界に誇れることである。しかし、人々がはつらつと豊かに生きるという当然の条件において、日本は劣っていることを示している。このような状況で、日本の未来はどうなるのであろうか。

(池内了・総合研究大学院大学名誉教授)


 本田由紀(ほんだ・ゆき) 社会学者。教育社会学を専門とする。学校教育と労働・就労との関わりを追究する仕事が多い。『教育の職業的意義』『教育は何を評価してきたのか』など多数の著作がある。

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