特別連載・サンデー毎日が見た100年のスキャンダル/4 平成初の本誌「特大スクープ」!「宰相の器」を問うた〝三本指〟〈サンデー毎日〉
1989(平成元)年 宇野首相辞任
金権政治の旧弊を脱し「クリーン」を売り物に船出したはずの政権がわずか2カ月の短命に終わった。その原因は、本誌がスクープした首相自身の「女性問題」だった。折しも元号が昭和から平成へ切り替わった時代――。「宰相の器」に問われたものは何だったのか。
1989(平成元)年の暮れ、恒例の「新語・流行語大賞」で新語部門金賞に輝いたのは「セクシャル・ハラスメント」だった。一方、流行語部門銅賞に「24時間タタカエマスカ」が選ばれている。旧来の〝男性型社会〟がブレーキとアクセルを同時に踏まされているふうがあり、面白い。
ただ物足りないことに、世間を騒がせた一語が抜けている。「三本指」である。同年8月、宇野宗佑首相が参院選敗北の責任を取り辞職した。在任69日。自民党サイトによると〈三点セット、すなわちリクルート問題、消費税問題、農産物自由化問題〉が争点だったというが、そこにない4点目、というよりもむしろ主因は「スキャンダル」だった。〈宇野新首相の「醜聞」スクープ 「月三〇万円」で買われたOLの告発〉
本誌『サンデー毎日』6月18日号の表紙に躍る見出しだ。発売は6月6日。前日に所信表明演説が行われたばかりの新政権を直撃した。当時40歳の女性Aさんが、東京・神楽坂で芸者をしていた85年、宇野氏と金銭を介した性的関係を結んでいたと誌上で暴露した。
〈(宇野氏が)「そばに来なさい」と何度も言うのでそのようにしました。(中略)正座して膝の上に置いていた手の真ん中の三本の指をギュッと握り、「これでどうだ」と言うのです。
――指三本ですか、具体的に金額は言わなかったのですか。
まさか、月三万円ということじゃないでしょう。月に三十万円でどうだ、ということじゃないですか。そればかりか、「横になりなさい」と横になるように言うのですよ〉(一部改変)
首相の女性問題は〝買春行為〟
議員宿舎近くの料亭に初めて呼ばれたという時の述懐。宇野スキャンダルの核心場面だ。Aさんによると宇野氏は直後に「月額30万円」の申し出を取り消し、改めてAさんの「旦那」となった。関係が終わる86年3月までに計300万円を受け取った。一問一答の中で記者は何度も「イメージと違う」と述べている。俳号を持つ文人政治家であり、リクルート事件で退陣した竹下登首相の後、クリーンさが買われて白羽の矢が立っただけに「三本指」を握る仕草は想像しにくい。
もっともその頃、有力政治家が芸者の旦那になり、金銭の面倒を見ながら特別な関係を結ぶことは珍しくなく、彼らの「下半身」を書かないのがメディア側の不文律でもあった。当時の編集長でジャーナリストの鳥越俊太郎氏はこう話す。
「政治家が女性と不倫し、肉体関係を持ったとしてもそれだけなら報道しない。宇野氏は彼女をホテルニューオータニに電話で呼び出し、国会を抜け出して会っていた。性交渉の対価としてカネを払っていた。これは『買春行為』であり、許されないと判断しました」
バブル末期、経済大国ニッポンの男たちによる「買春ツアー」が国際的批判を浴びていた。スクープは宰相の器をただすと同時に、日本社会が引きずる〝グレーゾーン〟に黒白をつけるべきか否か――と読者自身に問う意味も持っていた。
事実、続く6月25日号は「スキャンダル報道は是か非か」と題し著名人52人の声を載せている。落語家の立川談志さんは「最も男らしい行為」と宇野氏を擁護。女性でも作家の中山あい子さんが「女が悪い。今ごろになって何を言うか。この報道は非常に不愉快」と率直に語る。およそ3分の1が「非」としたのは、むしろ想定内の反響だろう。
それよりも海外有力紙が後追いするまで日本の新聞、テレビが音なしだったことが、覚悟を決めて筆を握った当時の本誌同人には「まさか」の出来事だった、という。