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「祈る」皇室から転換を 思い発信には工夫も必要 緊急連載・社会学的皇室ウォッチング!/17=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉

2022年の新年祝賀の儀(代表撮影)
2022年の新年祝賀の儀(代表撮影)

 コロナ禍のために、皇居・宮殿での新年一般参賀は行われず、1月1日、それに代わるビデオメッセージが公表された。天皇陛下は「感染症の対策のための努力を続けつつ、人と人とのつながりを一層大切にしながら、痛みを分かち合い、支え合って、この困難な状況を乗り越えていくことを心から願っています」と協力と互助の精神を強調した。

 新年のビデオメッセージは昨年に続き2回目。新型コロナ感染症拡大という危機にあたって、皇室に何ができるのか。天皇ご夫妻が出した答えだろう。

 特徴的なのは、ご夫妻で語り掛けた点である。雅子さまもまた「年の暮れからの寒波で大変な思いをされている方も多いのではないでしょうか」と話した。東日本大震災や天皇退位のメッセージの際、当時の陛下(現・上皇さま)はひとりでカメラに向かった。皇后と二人で並ぶのは新例で、天皇ご夫妻の考えであろう。

 原稿映写機(プロンプター)を利用して、視線を下げずに呼び掛けた点にも工夫が見られる。

 新型コロナの感染拡大以降、人びとに向けたメッセージを出すべきだとの声が上がっていた。一方で、コロナ対策は、感染対策重視か、経済活動重視かで評価が分かれるため、タイミングや内容が難しくなるとの指摘もあった(瀬畑源(はじめ)・龍谷大准教授、『朝日新聞』2020年10月28日)。

 これに応えたのが、1年前の新年ビデオメッセージだった。天皇陛下は「感染症の感染拡大防止と社会経済活動の両立の難しさを感じます」とバランスを取りながら、思いやり・助け合い・支え合いなどの価値の重要性を強調した。

 古来、疫病終息を祈るのが天皇の務めであるとする言説がある。天皇にメッセージを求める人には、こうした文脈を強調する人がいる。しかし、リベラル派の私からすると、天皇に「祈り」だけを求める語りには違和感を覚える。

 皇室の役割は「つなぐ」

 私たちは、皇室の「祈り」にしか、すがるものがない時代にはいない。政治があり、民意と世論があり、科学がある。皇室の「祈り」ばかりに期待する風潮は、健全な世の中とは思えない。

 では、皇室の役割とは何か。天皇陛下は若き日、「国民の中に入っていく皇室」という概念を打ち出した(1985年、英国留学から帰国の際の記者会見など)。国民に「寄り添う」ことからさらに進んで、「中に入っていく」という言葉を使ったのである。

 そうした意味で、オンライン交流の利点を生かして、鹿児島県の離島・竹島の子供たちと懇談したことは意義深かったろう(21年5月12日)。通常の行幸啓で、人口約60人、鹿児島港から約3時間のフェリーが週4便のこの島を天皇が訪れる可能性はなかったためだ。

 私は、「中に入っていく」概念をより発展させ、皇室の役割は、さまざまな現場を「つなぐ」こと、それによって人びとを「力付ける」ことだと考えている。「エンパワーメント」と言い換えてもいい。

 天皇陛下は昨年6月25日、オンライン形式で開催された「第5回国連水と災害に関する特別会合」で、英語で26分間、講演した。タイトルは「災害の記憶を伝える――より強靭(きょうじん)で持続可能な社会の構築に向けて」。宮城県女川町の中学生の発案で造られた避難誘導の石碑や、岩手県宮古市の震災遺構「たろう観光ホテル」の写真スライドを使いながら、津波の経験を後世に伝えていく活動を紹介した。歴史家として、経験を後世につなぐ活動を世界に発信したのである。

 印象的だったのは、講演の最終盤、「一人で立ち向かうことは困難な自然の猛威に対しても、私たちは互いに助け合い、気遣い合うことにより、社会全体で立ち向かってきた」と社会の連帯を強調したところだ。さらに、陛下は「私たちは新型コロナウイルス感染症の只中(ただなか)にあり(中略)人々の絆を強め、連帯を深めることで人類はこの未曽有(みぞう)の困難を乗り越えることができる」と伝えた。力強いメッセージである。

 連帯が、すなわち「つなぐ」ことである。天皇陛下は、地域の人たちの活動を紹介し、地道な活動にパワーを与えている。歴史家としての経験、自らフィールドに立ち続けた体験をもとに、かなり強い思いを込めたメッセージを発信しているのだ。

 「見せ方」に問題あり

 残念なことに、こうした天皇陛下の考えが幅広く人びとに伝わってはいない。これは、見せ方、パブリシティー(情報発信)の仕方に問題があると思う。どうすれば人びとに深く伝わるかの工夫が、あまりされていないのだ。

「国連水と災害に関する特別会合」の講演動画は26分間すべてが公開された。だが、ニュースとしては十数秒が使われるにすぎない。前後の様子をメーキング映像に撮るとか、講演にかける思いなどを別に語るなどしなければ、映像が単調に終わってしまうためだ。せっかくの講演を生かしきれていない。

 新年のビデオメッセージは、より公的なものなので、工夫は難しかったと思う。だが、自らの体験や研究をもとにした具体的なエピソードを盛り込んだら、より説得力と共感が増しただろう。

 過去1年間の天皇ご夫妻の活動の映像を挟み込むという手法もある。とくに、ご夫妻と話している地域の人たちの様子を映せば、皇室と人びとのコミュニケーションが分かりやすく図像化できた。

 ネット上には、さまざまな動画があふれている。そのなかで、皇室からの発信にも、工夫された「演出」があれば、より多くの人びとが関心を寄せ、耳を傾けることになろう。

 天皇の役割が「祈る」という静的なものであったのは前近代までである。21世紀の天皇制は、動的(積極的)に人びとの中に分け入り、エンパワーする(力付ける)存在であるべきだと考える。それを分かりやすく伝えるには、演出力とプロデュース力も必要となる。

 ビデオメッセージから伝わる天皇ご夫妻の真摯(しんし)さには好感が持てる。それは演出によって、より光って見えるはずだ。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史―側室・育児・恋愛』(吉川弘文館)など

「サンデー毎日1月23日号」
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