経済・企業 挑戦者2022
「大手に負けない」清掃ロボ完成、次は“世界初”の階段昇降ロボ=クフウシヤ・大西威一郎社長(動画あり)
大西威一郎 クフウシヤ代表取締役社長 多用途な自律ロボを身近に
高機能をそぎ落とし、比較的安価で信頼性のある自律型ロボットを開発した。
(聞き手=中園敦二・編集部)
業務向け自律型移動ロボットの研究開発・製造をしています。まず、自律的に移動できる装置を土台にして、その上部は、掃除や運搬など、仕事に特化した機器を載せ替えることができる仕様にしたロボットです。(挑戦者2022)
例えば、「アシオン」という掃除ロボはその一つです。会社設立当時、自律型移動ロボットでニーズがあるといわれていたのは、「案内」「警備」「運搬」「清掃」でした。アシオンは2017年から開発を始め、障害物に当たらずに停止せず、効率よく清掃できるかなど試行錯誤しながら21年に製品化できました。
オフィスや工場のホコリやゴミは、風や人の流れでどうしても壁際にたまってしまいます。大手メーカーの自律型掃除ロボは、壁際を完璧に掃除するための制御装置に多額の開発費をつぎ込んでいるので、どうしても高価になります。一方、アシオンは、その壁際は初めから人の手にお任せするので、制御装置をシンプルにでき、その分、価格を安く抑えることができます。
それでも、タイル張りの床などの凸凹や点字ブロックでも乗り越え、特殊技術で吸引ノズルと床面との微妙な間隔を空けながら上下することで、吸引力を維持してきれいに掃除ができます。シュレッダーのゴミや、クリップ、ガムの包装紙なども吸い取ります。1時間に1000平方メートルを清掃でき、価格は300万円台です。
東日本大震災と原発事故からの復興に取り組む福島県南相馬市が「ロボット特区」となったので、当社も現地に事務所を構えました。部品製作は地元企業の力を借りています。このロボが話題となり、特注ロボの注文も多く舞い込んできています。
“世界初”階段昇降ロボも
あと1年半ほどで自律型の階段昇降ロボが完成する予定で、世界初になる可能性もあります。コストを抑えながら安全性を保つ設計で、特許を出願しました。特徴は、ロボの重心を移動させて安定的に昇降する点です。
用途はタワービルの非常階段などです。掃除セットを取り付ければ清掃ロボ、カメラやセンサーを搭載すれば、不審物を発見する警備ロボ、壁にひびが入っていないかを点検するロボになります。階段を1段上がるのに10秒程度かけ、100万円程度で提供できれば。既に鉄道会社から引き合いがきています。
大企業と同じ土俵で戦わず、ニッチに特化しました。でも、実際に参入したら市場はすごく広かったです。
社名の由来は関西弁で「工夫しや!」です。設立のきっかけは、中小企業診断士としてロボ企業にアドバイスしていた時に、自分でも作ってみたくなったことです。
現在、当社のエンジニアは8人でその半分が、ロボット競技会「ロボコン」出身者です。ソフトからハードまで一貫して作り込む楽しさがあります。
会社を大きくすることや上場は意識していません。利益は出しつつも、ワクワクする仕事がしたい。経営計画に縛られて開発すると、社員は幸せになれない。納期ありきでこなれた技術で済ませては技術力も高まらないし、それで終わってしまう。まだ世の中にないロボを生み出したい。もっと開発が必要です。
企業概要
事業内容:サービスロボット設計・製造
本社所在地:相模原市緑区
設立:2014年10月
資本金: 700万円
従業員数:12人
開発中の階段昇降ロボットクフウシヤ提供
■人物略歴
おおにし・いいちろう
1977年兵庫県生まれ。96年神奈川県立横浜翠嵐高校卒業、2001年明治学院大学経済学部卒業。ITシステム会社などを経て、09年法政大学専門職大学院イノベーション・マネジメント専攻(MBA)修了、14年株式会社クフウシヤを設立して代表取締役社長。44歳。