高度数学のAIで課題解決するアリスマーのスゴさ=中園敦二
大田佳宏 Arithmer(アリスマー)代表取締役社長兼CEO 高度数学のAIで課題解決
高度数学を使えば、複雑な現実の問題を解くことができる──。その思いが今、形となって、世の中のさまざまな場面で採用が広がっている。
(聞き手=中園敦二・編集部)
高度な数学を使ってAI(人工知能)を開発し、社会問題を解決することがミッション(使命)です。顧客視点で「ニーズ」を何でも素早く解決でき、事業分野は多岐にわたります。(挑戦者2021)
防災関連でいえば、ドローンに搭載したレーダーで計測したデータを基にAIで三次元地図を作成します。地図画面上で石ころ一つをクリックするだけで緯度・経度・高度・材質が全部出てくる精度です。豪雨による浸水シミュレーションは水の流れをセンチ単位で予測して浸水被害を算出できます。通常なら膨大な画像処理で数カ月かかるところを数時間ででき、いち早く避難することも可能です。実際、浸水シミュレーションは災害後の保険金支払いに役立つとして、損害保険大手に採用されました。
我々の独自のアルゴリズム(計算方法)だからできることです。津波が来たら何センチ浸水するか、地震があれば地震の規模(マグニチュード)によってどのような被害になるかというシミュレーションも迅速に実行できます。
なぜ、そんなに速くできるのか。数学で課題を解くときに二つの方法があります。一つは課題に対して、「定式化」したアルゴリズムを適用することですが、ただ、それを使っても1~2割しか時短になりません。そこで、もう一つの方法として、我々は「定式化」自体を自分たちで作り直すことで、7~8割速く最適解を求められるようになりました。
こうしたAIによって、写真を4枚ほど撮影すれば、来店しなくても顧客の体型にあったオーダースーツを作れるスマホアプリを紳士服大手と開発し、女性向けアパレルメーカーの採寸アプリもできました。また、物流倉庫や船底での荷物の積み込み方も最適化できます。
「美しい世界」力発揮
数学は抽象的な学問で「美しい世界」ですが、決して世の中の役に立たないものではありません。科学技術の基礎であって応用分野が広く、今までできなかったことを可能にするものなのです。そのことを分かってもらいたいという思いもあり、東京大学発の数学ベンチャーとしてアリスマーを2016年に設立しました。
欧米では今、数学系の学生がひっぱりだこで、米グーグルなどGAFAと呼ばれるIT企業は年収2000万円といった好待遇で採用しています。我々は正直、その半分以下の年俸しか出せないのですが、「お金じゃなくて、自分たちで面白い、新しいものを作りたい。それが社会のためになるなら、なお一層やりたい」という意識を持った若者が日本や欧米、アジアから集まっていて、博士号取得者は20人ほどいます。
今後5~10年で、量子コンピューターが主流になる可能性があります。これを使いこなせる人材は世界でもまだ少ないです。
我々は今、そのアルゴリズム作成に取りかかっています。数学を基礎にグローバルな展開を目指しています。
企業概要
事業内容:高度数学を応用したAIソリューションサービスの研究・開発
本社所在地:東京都港区
設立:2016年9月
資本金:27億7884万円(資本準備金含む)
従業員数:72人
■人物略歴
おおた・よしひろ
1971年徳島県生まれ。90年徳島県立城南高校卒業、95年東京工業大学工学部情報工学科を卒業し、97年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修士課程修了。2011年数理科学博士号取得(東京大学)。日立製作所中央研究所の研究員などを経て、15年から東京大学大学院数理科学研究科特任教授。16年に東大発ベンチャーとしてArithmer(アリスマー)を設立し、代表取締役社長兼CEO(最高経営責任者)。50歳。