ホームレスだった僕が家具を借りたい人と国内メーカーをつなぐ「airRoom」を始めた理由
大薮雅徳 エアールームテクノロジーズ代表取締役兼CEO 国産家具を気軽にシェア
質の良い国産家具を買わずに借りるシェアサービス。ビジネスの原点はホームレス生活にあった──。
(聞き手=市川明代・編集部)
品質の高い家具を利用してみたいけれど、買うのはちょっと勇気が要る──。そんな消費者を国内の老舗家具メーカーとつなぎ、お目当ての家具を毎月定額で借りることができるサービス「airRoom」を提供しています。(挑戦者2021)
利用者はインターネットサイトで家具を探し、申し込みから返却まで、オンラインで手続きします。申し込みを受け、メーカーの倉庫から直接配送。レンタル期間は最低3カ月で、その後1カ月ごとに料金を支払ってもらう仕組みです。気に入ったら、そのまま差額を払って購入することも可能です。
サービスの利用者の多くは賃貸住宅に住み、転勤や引っ越しを控えて大きな買い物ができない20~30代の単身者。一方、家具を提供しているのは、家具製造を地場産業とする福岡県大川市や岐阜県飛騨市などの国内の老舗家具メーカーです。国産家具は伝統的に、専門商社が間に入って小売店に卸してきましたが、ニトリや良品計画など、製造から小売りまでを担ういわゆる「SPA」と呼ばれる企業が国内シェアの5~6割を握るようになり、商社も仕入れを縮小せざるをえなくなっています。
小売りとの接点を持ったことのない家具メーカーは、消費者のニーズをくみ取ることができず、苦戦しています。インターネットの総合通販サイトに出品しても、中国製などに押されて人々の目に留まらないのが現状です。このため家具メーカーは廃業が相次ぎ、20年前の3分の1ほどになったといわれています。
現在の取引企業は約60社。当社は売り上げの一定割合を受け取る代わりに、利用者へのアンケートを基に消費者ニーズを分析し、各社に情報提供しています。貸し出した家具のうち10%が購入につながっており、当社のサービスによって「滞留在庫が減った」「新たな顧客を開拓できた」というメーカーも出てきています。
新型コロナウイルス禍で、「家で過ごす時間を快適にしたい」というニーズが高まり、売り上げはコロナ前の約15倍になりました。部屋を四方から撮影した写真を送ってもらうことで、専属インテリアコーディネーターが希望に合った家具をトータルでセレクトし、3Dのイメージ写真を送付するサービスも開始しました。
格差のない社会目指して
ビジネスの原点は、子どもの頃の生活苦にあります。実家は自営業でしたが、会社が倒産し、両親が“蒸発”。高校時代を弟と2人で公園で「ホームレス」として過ごしました。格差のない社会を目指して起業したいと思うようになりました。
高校卒業後、上京し、奨学金で大学に入学しましたが、すぐに生活が立ちゆかなくなって中退。物の「シェア」を軸とする起業に目標を絞り、EC(電子商取引)サイト運営のノウハウを学ぶためアルバイトでフードデリバリー事業の立ち上げに関わりました。アプリ開発の仕事を経て、ニーズの高い「家具」のシェアビジネスに狙いを定め全国の家具メーカーを回って協力を呼びかけ2018年10月からサービスをスタート。徐々に規模を大きくしてきました。ゆくゆくは、生活に必要なあらゆるものをシェアするサービスにしていきます。
企業概要
事業内容:家具・家電のサブスクリプションサービス「airRoom」の企画・開発・運営
本社所在地:東京都中央区
設立:2018年5月
資本金:未公表
従業員数:15人
■人物略歴
おおやぶ・まさのり
1995年愛知県生まれ。法政大学経済学部中退後、食関連のサービス企業dely、ヘルステックベンチャーFiNCにて新サービスの立ち上げやiOS/Web開発に携わる。2018年にエアールームテクノロジーズ(旧:Elaly)を設立し、代表取締役兼CEOに就任。26歳。