経済・企業挑戦者2021

松本敏男 落雷抑制システムズ代表取締役 雷を「落とさない」避雷針

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 雷をできる限り落とさないという抑制型の避雷針を日本で広く普及させようと起業した。さまざまな場面で使われる電子機器は雷に弱いため需要は大きい。

(聞き手=藤枝克治、構成=加藤結花・編集部)

 従来の避雷針とは異なる仕組みの避雷針「PDCE」を販売しています。PDCEはマイナスとマイナスの電荷が反発することを利用しています。マイナスの電荷を帯びている雷雲の底(地表側)に対し、PDCEの上部電極にマイナスの電荷を集めると同時に、地上から空へ向かう放電を抑え込むことなどで、雷がなるべく落ちないようにします。(挑戦者2021)

 これまで避雷針といえば、マイナスとプラスの電荷が結びつく原理を利用し、わざと避雷針に雷が落ちやすくすることで建築物を守っていました。「避」という漢字を使っているので雷を避けているように思いますが、雷を呼び寄せているので「被る」と書いて「被雷針」といったほうが実態に近いんですよ。つまり、PDCEは従来型の避雷針とは逆転の発想なんです。

 これまでの避雷針では、避雷針に雷を落とすことに成功した場合でも、雷が雨にぬれた地表を流れることで周辺の電気機器の障害の原因になったりしていました。PDCEは雷をできる限り落とさないようにする仕組みなので、そういった不安が少ないのです。建物だけでなく建物内の電気製品も守ることができるので、鉄道会社や公園、消防署、学校など公共性の高い設備を中心に3000台以上を納入しました。

 新型コロナウイルス禍で東京オリンピック・パラリンピックは残念ながら無観客での開催となってしまいましたが、落雷対策として35会場でも当社の避雷針約100台が設置されました。他にも、野外で行われるアーティストのコンサート会場、神社のご神木や伝統ある文化財などを守るためにもPDCEが導入されています。

自動運転、風力発電にも

牛久大仏の頭頂部に設置されているPDCE
牛久大仏の頭頂部に設置されているPDCE

 PDCEは軽量化など用途に合わせて改良を続けていますが、発明したのは私ではなく、欧州にあるアンドラ公国の発明家が生みの親です。日本のある会社が独占販売権を得て2006年に販売しましたが、ほとんど普及しませんでした。私は日本IBMなどでLAN(情報通信網)関連の仕事に携わり、取引先を通じてPDCEの優れた仕組みを理解していたので、「このまま埋もれさせてしまうのはもったいない」と私を含め3人の仲間で10年、1人200万円ずつ持ち寄って資本金600万円で会社を設立しました。

 最初に受注したのは牛久大仏(茨城県牛久市)です。高さ約120メートルの牛久大仏は落雷により、エレベーターの制御装置が壊れたりする被害に悩まされていたのです。その後、海洋研究開発機構の地球深部探査船「ちきゅう」にも採用されました。ちきゅうは海面からの高さ約120メートルのボーリング用のタワー「デリック」を搭載しており、デリックへの落雷を避けることが目的です。

 販路が広がらずに苦労した時期もしばらく続きましたが、京王電鉄の設備に採用されたことをきっかけに、事業は3年ほどで軌道に乗りました。車の自動運転を支える信号機や、風力発電の風車の保護など、落雷対策が必要な設備は今後、さらに増えていきます。70歳になりましたが、アイデアはまだまだ湧いてくるので、挑戦をこれからも続けるつもりです。


企業概要

事業内容:落雷抑制装置の開発・製造・販売

本社所在地:横浜市

設立:2010年2月

資本金:2500万円

従業員数:1人


 ■人物略歴

まつもと・としお

 1951年神奈川県生まれ。74年電気通信大学計算機学科卒業。80年に日本IBMに入社。テクニカルライターとしてコンピューターの取扱説明書の執筆、LAN(情報通信網)の企画などを行う。約15年同社に勤務した後、96年からはコネクターやケーブルに強みのあるReichle&De-Massari(本社:スイス)に転職し、日本支社長を務めた。PDCE技術を知り、2010年に起業。70歳。

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

8月23日号(8月16日発売)

電力危機に勝つ企業12 原発、自由化、再エネの死角 オイルショックを思い出せ ■荒木 涼子/和田 肇15 電力逼迫を乗り越える 脱炭素化が促す経済成長 ■編集部16 風力 陸上は建て替え増える 洋上は落札基準を修正 ■土守 豪18 太陽光 注目のPPAモデル 再エネは新ビジネス時代へ ■本橋 恵一2 [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事