週刊エコノミスト Online挑戦者2021

中尾信一 ネクストベース社長 ITで日本のスポーツを変える

撮影 武市公孝
撮影 武市公孝

 上意下達の慣習が残るスポーツ界。監督と選手の間にデータを挟むことで、スポーツのあり方を変えようとしている。

(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=和田肇・編集部)

 プロ野球選手を中心に、IT技術を活用して投手の球質を解析するサービスなどを提供しています。今までは、監督やコーチが自分の経験を主観的に選手に伝える指導方法でした。選手はそれを少ない経験値の中で受け取りますが、うまくいかないケースがあります。だから、指導者と選手の間に通訳的な役目としてデータを置く。選手もデータを見ながら話を聞けば、全然違います。(挑戦者2021)

 球速や球の回転数、回転軸、変化量など、あらゆるデータを測定し、プロ野球選手の平均値と比較して、自分がどの位置にいるのか、どうすれば打たれにくい球が投げられるのか、そのためのトレーニング方法などをアドバイスします。投球フォームもモーションキャプチャー(人の動きをデジタルデータにする技術)を使って解析します。

 これまで複数のプロ野球チームほか、埼玉西武ライオンズの高橋光成選手や平良海馬選手、千葉ロッテマリーンズの美馬学選手ら各球団の10人ほどと契約しています。

 この他に、中学生以上を対象とした野球の球質解析、スポーツ放送向けのデータ解析サービスなども行っています。最近では、メジャーリーグの大谷翔平選手の投球・打球の解析を行いました。野球以外でも卓球「Tリーグ」中継のデータ解析などもしています。9月にはアイフォーンで打撃・投球のデータを取得・分析できるアプリ「ネクストショット」を発売しました。さらに、来年に向けて、本格的な測定施設を作ることも計画しています。

高精度機器で投球動作を解析する ネクストベース提供
高精度機器で投球動作を解析する ネクストベース提供

大学で夢絶たれる

 私は小学生から野球を始めて、大学まで続けました。プロ野球選手になることしか考えていなかったのです。ピッチャーでしたが、大学3年生の時に肩を壊しました。リハビリをやりましたが駄目でした。大学卒業後にNTTに入社しましたが、データに関わる仕事をしているうちに、「これはスポーツにも生かせる、日本のスポーツ界が劇的に変わる」と直感しました。会社設立に向けて、多くの独立系ベンチャーキャピタルと資金調達の交渉をしましたが、「少子化で野球人口は減少する」などの理由で、ほとんど断られました。しかし、NTTぷらら、セガサミーホールディングス、2020社、SMBCベンチャーキャピタルの4社が、支援を決めてくれました。

 自分は技術者ではないので、会社設立から約2年半は専門家を探しました。そして、いま役員をしている神事努氏と出会ったのです。彼は投球動作の分析が専門で、大学准教授のかたわら、東北楽天ゴールデンイーグルスのデータ分析などもしていました。彼に初めて話を聞いた時、今まで野球選手が感覚で捉えていたものを全部数値化して説明したので驚きました。それで神事氏に会社に加わってもらい、米メジャーリーグを超える最先端のデータ解析システムを作ろうと考え、半年後に開発に成功し、プロ野球のチームや選手に活用いただいています。

 私たちが子供の頃は、詰め込み教育主義の時代でした。これからはデータを活用して、自ら考え、自ら行動する時代。それを子供たちには好きなスポーツを通じて、挑戦と失敗の中で学んでほしい。私たちはそれをITの力でサポートしていきたいと考えています。


企業概要

事業内容:IT技術を用いたスポーツ動作解析、データ分析、選手・チームサポート事業

本社所在地:東京都品川区

設立:2014年6月

資本金:7700万円(準備金除く)

従業員数:22人(インターン含む)


 ■人物略歴

中尾信一(なかお・しんいち)

 1972年千葉県生まれ。小学校3年から野球を始める。千葉県立佐倉高校で夏の千葉県大会4回戦。立教大学に進み野球部に所属。小学生以来ピッチャーだが、大学3年時に肩を壊す。大学卒業後NTTに入社。デジタル分野の新規事業立ち上げなどに携わった後、2008年に退職。IT系ベンチャー企業設立を経て、14年にネクストベースを設立。49歳。

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