「モバイル胎児モニター」で2度目の勝負に出た女性起業家が最後までこだわった「サイズ感」
尾形優子 メロディ・インターナショナルCEO 小さな装置で胎児を見守り
手のひらサイズの二つの装置で、胎児と母体の状態を遠隔監視。国内外のへき地医療に役立っている。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=市川明代・編集部)
出産は命がけです。おなかの中の赤ちゃんは、わずかな酸素しかないエベレスト山頂にいるようなもの。医師は胎児の心拍とお母さんのおなかの張りの両方を確認し、状態を判断します。産科医不足が叫ばれる中、自宅でもコンパクトな機器でこの二つを測れるようにしたのが、IoT式のモバイル胎児モニター「分娩(ぶんべん)監視装置iCTG」です。(挑戦者2021)
高齢出産が増え、切迫早産のようなトラブルが増えています。一方で、地方の産科医不足は深刻です。平均14回の妊婦健診を受けるために、北海道や東北では山道を車で2時間近くかけて病院に通う人たちもいます。離島では、ハイリスクの妊婦がヘリコプターで大病院に搬送されるケースもあります。何かあった時に医師が母体と胎児の状態を早めに把握できれば、早めに対処できるのです。
iCTGのピンクの装置は、超音波を母体のおなかを通して胎児の心臓に当て、反射波で心拍を測定します。スピーカーが内蔵されていて、かすかな心拍の音を大音量で聞くことができます。水色の装置は、母体のおなかの圧力を測定して陣痛の有無や間隔を計測するのに使います。いずれもブルートゥース(近距離無線通信)で接続されたタブレットから操作する仕組みで、データは遠隔の医師にリアルタイムで送信されます。
ピンクの装置を作るのに、相当な苦労がありました。産科医で使われる大がかりな心拍測定装置を、手のひらサイズにしたのです。心拍音とスピーカーからの音が干渉し、どうしてもノイズが発生してしまいます。スピーカーを外付けにしてはという意見もありましたが、扱いやすい一体型の装置にすることに最後までこだわりました。
おなかの上で装置を動かして小さな赤ちゃんの心拍を探す作業は医師でも難しいので、センサーの数を増やして妊婦さんが楽に探せるような工夫もしました。
院内感染防止にも活用
遠隔医療を想定して作りましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で院内利用の需要が高まりました。陽性の妊婦さんに付けてもらえば、医師や看護師との接触を最小限に抑え、院内感染を防ぐことができます。北海道大学病院は昨年3月、早々にオンライン妊婦健診を開始し、iCTGを大量に導入してくれました。定価は1台150万円ですが、これをきっかけに月12万円のレンタルサービスも開始しました。
私自身は大学で原子力を学びました。大学院修了後に就職した香川県の企業が倒産。電子カルテを普及させる仕事に就き、産婦人科のカルテのデータ化が進まない状況を何とかしようと2002年に医療ITベンチャーを創業。産科医と連携する中で遠隔医療に関心を持ち、再び起業することにしたのです。
原量宏・香川大教授(当時)を中心に開発を進めました。地元の電気機器メーカーが医療機器製造資格を取得し、製造に協力してくれました。
国の認証を受けたあとは、導入してくれる産科医を探して全国を行脚しました。過疎の進む奄美大島や岩手県遠野市の医師、ハイリスク妊娠の治療で定評のある亀田総合病院(千葉県鴨川市)が利用してくれたことで、認知度が高まりました。
現在、日本のほかタイやブータンなど、国内外の医療機関で300台が使われています。今後2年で2000台の導入を目指しています。
企業概要
事業内容:遠隔医療サービスのプラットフォームと医療機器の開発、製造、販売
本社所在地:高松市
設立:2015年7月27日
資本金:2億6400万円
従業員数:12人(役員除く)
■人物略歴
おがた・ゆうこ
京都府出身。1985年、京都大学大学院工学研究科修了。2002年、医療ITベンチャーのミトラを設立し、日本発の周産期電子カルテを事業化。15年にメロディ・インターナショナルを設立し、CEOに就任。