稲田大輔 atama plus(アタマプラス)代表取締役 AIで基礎学力の習得を支援
子供たちがこれからの時代を「生きる力」を身に付けるために、AIを使った教材を開発している。
(聞き手=稲留正英・編集部)
AI(人工知能)を使って、基礎学力の習得時間を短くする学習教材「atama+(アタマプラス)」を小中高生向けに開発し、塾や予備校に提供しています。現在、全国トップ100の塾・予備校の3割が採用し、全体では2500教室が導入しています。(挑戦者2021)
会社を設立したのは、これだけ社会が大きく動き、子供たちに求められる力が変わっているのに、日本の教育は明治維新以来150年間変わっていない、これでよいのだろうか、という問題意識からです。
これからの時代は、受験で問われる基礎学力だけではなく、ディスカッション力、プレゼンテーション力、コミュニケーション力などを身に付けなければいけません。私はこれらを「社会で生きる力」と呼んでいます。
しかし、日本の教育現場、学校や塾を見ると、先生も生徒も忙しすぎて、「社会で生きる力」を身に付けようと思っても、その時間がないのが現状です。そこで、AIの力を活用して、基礎学力の習得にかかる時間を半分以下にし、残った時間を「社会で生きる力」の習得に使ってもらいたいと考えました。
では、どのように習得時間を効率化するのか。一言でいえば、「教育のパーソナライゼーション(個別最適化)」です。生徒は、タブレット、スマートフォン、パソコンを使って、「アタマ先生」と名付けたAIの先生と一緒に勉強します。アタマ先生は、学習する生徒とのやり取りを通じて、いろいろなデータを取得し、その子が学ばなければいけない単元や難易度を判断し、学習プランや教材を一問一問変化させて提供します。例えば、高校数学で「正弦定理」を理解するには、高校の範囲だけでなく、中学の平方根や三平方の定理なども理解しておく必要があります。アタマ先生は、「つまずきの原因」を特定し、最適化した演習問題、復習問題、講師の講義動画を出して、基礎から学び直してもらいます。
きっかけはブラジル留学
私は学生時代に、人の笑顔の総量を最大化する仕組みを作りたいと考えていました。一時はお笑い芸人になることも検討しましたが、それでは、ライブハウスにいる人しか笑顔にできない。永続的な笑いを作るには、産業を興す必要があると考えました。
そこで、リソースが多そうな三井物産に入り、ブラジルに留学させてもらいました。ブラジルは世界一「幸せです」と答える人が多い国だからです。現地の高校にも通ったのですが、そこで分かったのは、幼少時からディスカッションやプレゼンテーションを通じて、自己表現力を身に付けていることでした。
一方で、基礎学力は日本のほうがはるかに高い。そこで、基礎学力と「生きる力」の双方を身に付けられる教育を提供したいと思い、日本に帰国後、ベネッセと交渉して、ブラジルで教育事業を立ち上げたのが、このビジネスを始めたきっかけです。
今回、新たに51億円の資金を海外の機関投資家などから調達しました。主な用途は、人の採用で、現在160人の社員を来年3月末までに250人にしたいと考えています。「生きる力」を身に付ける教材は、今後、いろいろなパートナーと一緒に開発していきたいと思います。海外展開も視野に入れています。
企業概要
事業内容:AIを活用した教育プロダクトの開発および提供
本社所在地:東京都品川区
設立:2017年4月
資本金:71億円
従業員数:160人
■人物略歴
いなだ・だいすけ
1981年東京都出身。2006年東京大学大学院情報理工学系研究科修了、三井物産入社。ベネッセブラジル執行役員を経て、17年4月にatama plusを設立し、代表取締役に就任。