経済・企業 挑戦者2021
失明のない世界を目指して=北直史・ミタスメディカル代表
北直史 ミタスメディカル代表取締役 失明のない世界を目指して
眼科医が不足する地域と都市部をつなぐ診療機器を手掛けるミタスメディカル。医療格差の大きい新興国を中心に、日本でも活動の幅を広げる。
(聞き手=藤枝克治・本誌編集長、構成=斎藤信世・編集部)
「医療が届かないところに医療を届ける」というミッションのもと、モンゴルやカンボジアなどの眼科医が少ない国で、目の遠隔診療を可能にする眼科診療機器を展開しています。(挑戦者2021)
眼科診療では通常、「細隙(さいげき)灯顕微鏡」という装置を使い、目のどこに、どのような病気があるのかを検査します。多機能なので、眼科医でも操作に慣れるまでには時間がかかります。
そこで僕らは、眼科医療機器メーカーのタカギセイコー(長野県中野市)と共同で、装置の一部をスマートフォンで代替することによって、専門知識がなくても目の画像撮影を可能にする小型の医療機器「MS1」を開発しました。患者の額と頬を機器が支えることで、前後や上下のズレを防ぐことができ、眼科の診療経験がなくてもスマホで焦点を合わせて眼画像を撮影できます。
これまでにモンゴルで20カ所、カンボジアでは外資系の病院に導入しました。両国ともに眼科医が少なく、地域間の格差が課題となっているため、参入を決めました。
モンゴルは人口約300万人の国ですが、眼科医は125人程度で、うち100人が首都に集まっています。国土が広大で、最寄りの診療所から県の中央病院の眼科まで、遠いところでは片道6~7時間もかかるんです。2019年に実施した実証実験では、村の診療所と中央病院の眼科をつなぐ遠隔診断を3カ月で約300件行いました。実際に、急性緑内障発作を発症している患者さんを見つけることができ、適切な治療を行うことで失明を防ぐことができました。
日本での展開も始めています。現在は広島県と実証実験を行っており、10月末まで広島市沖の離島の診療所と県立病院をつなぐ遠隔診療を実施する予定です。僕自身驚きましたが、実は日本でも約680の自治体には眼科の登録がないんです。
救えなかった失明
北海道の病院に勤務していた頃、山間部に住んでいるおばあさんが目の痛みを訴えて僕のところにやってきました。検査の結果、急性緑内障発作により、両目ともに失明していることが分かりました。彼女は痛みが出た日に村の診療所を受診したそうなのですが、医師は「痛みが続くようであれば眼科を受診するといい」と助言するにとどまったそうなんです。放置すると1~2日で失明する病気なので、眼科医であれば緊急性を感じることができたはずなんですよね。このことをきっかけに、眼科医と眼科以外の医師を結ぶ簡単な仕組みを作りたいと思うようになりました。
まずは3Dプリンティングで模型を作り、手ごたえを感じたので起業を決めました。同じ眼科病棟で働いていた看護師の山内佳奈取締役と一緒に、約3年かけて開発しました。
今後は、日本国内での活動も力を入れていく方針で、眼科が参入しづらい在宅医療の領域に広げていきたいです。海外では、他のアジアの国にも進出し、最終的には世界中で使ってほしいですね。
眼科医にたどり着けないがために失明する人が一人もいない世の中の実現を目指していきます。
企業概要
事業内容:眼科診療機器の開発・販売
本社所在地:東京都港区
設立:2017年4月
資本金:約1億円(資本準備金含む)
従業員数:4人
■人物略歴
きた・なおふみ
1981年神戸市生まれ。2007年高知大学医学部医学科卒業。東京大学医学部付属病院などを経て、13年に眼科専門医となる。17年4月にミタスメディカルを設立した。40歳。