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皇室新世代が社会を変える 発信する佳子さまに期待 社会学的皇室ウォッチング!/19=成城大教授・森暢平〈サンデー毎日〉

「歌会始の儀」で朗詠を聞かれる佳子さま=皇居・宮殿「松の間」で1月18日(代表撮影)
「歌会始の儀」で朗詠を聞かれる佳子さま=皇居・宮殿「松の間」で1月18日(代表撮影)

 昨年12月29日、秋篠宮家の次女、佳子さまが27歳の誕生日を迎えた。佳子さまは、ジェンダー平等や姉・眞子さんの結婚に関する発言で注目される。新しい感性で発信する思い切りの良さは、皇室の新世代(Z世代)の登場を感じさせる。

 佳子さまは同10月10日、日本のガールスカウト運動100周年を祝う「国際ガールズメッセ」の式典に宮邸からオンラインで参加し、以下のビデオメッセージを寄せた。

「世界経済フォーラムが発表したジェンダーギャップ指数で、日本は156カ国中120位にとどまりました。この現状はとても残念なことですが、日本においてもジェンダー平等をめぐり努力を重ねている方々が多くいらっしゃいます。今後、ジェンダー平等が達成され、誰もがより幅広い人生の選択肢を持てるようになることを、自らの可能性を最大限、生かす道を選べるようになることを、そしてそれが当たり前の社会になることを切に願います」

 思い切ったメッセージである。皇室にとって男女平等はセンシティブな問題であるためだ。ちょうど「眞子さま結婚問題」で世間が騒然としているとき。皇族の自由な選択を許さない世間への反発とも受け取られた。

 この発言を批判する声が当時、ネット上にあった。「政治的な発言ではないか」という非難である。

 皇室に重要なのは「伝統」であると考える保守からの反発もあった。保守主義者たちは、自由、平等、個の確立といった近代の価値や、能力主義、競争といった現代社会のあり方に否定的である。そうした人びとから見ると、伝統を体現すべき皇族が、ジェンダー平等という近代の価値観をもとにした発言をすること自体が「許せない」となるのだろう。

 しかし、そもそも、男女共同参画社会の実現は、国が目指している政策である。男女が対等な立場で、社会のあらゆる分野の活動に参画する機会を目指すのは当たり前のことだ。

 当然の目標が共有されない現状を「何とか変えたい」と考える佳子さまの率直な思いが、発言から垣間見える。

 毅然とした発言

 眞子さんの結婚についても佳子さまは思い切りのいい発信をしている。最初は2019年3月、国際基督教大学(ICU)卒業の際の文書回答だった。

「姉の件に限らず、以前から私が感じていたことですが、メディア等の情報を受け止める際に、情報の信頼性や情報発信の意図などをよく考えることが大切だと思っています。今回の件を通して、情報があふれる社会においてしっかりと考えることの大切さを改めて感じています」

 間接的なメディア批判である。当時、ワイドショーや週刊誌には小室圭さんやその母親への批判が溢(あふ)れていた。佳子さまの発言を言い換えると「現代の情報社会では、きちんとしたリテラシー能力を持つべきだ」となる。ワイドショーや週刊誌の報道はよく吟味して受容してほしいという人びとへのメッセージでもあるだろう。

 昨年10月の眞子さん結婚の際のコメントはさらに踏み込んだ。

「結婚に関して、誤った情報が事実であるかのように取り上げられたこと、多くの誹謗(ひぼう)中傷があったことを、私もとても悲しく感じていました」

 佳子さまは毅然(きぜん)として発言した。一貫して姉と小室さんを擁護し、応援する姿勢を崩さなかった。

 今にいたるも、依然として秋篠宮家を非難する声があり、佳子さまも批判の対象になっている。「佳子さまはこれまでもメディアへの敵愾心(てきがいしん)を露(あら)わにしてこられました」「(眞子さまの結婚当日)、巽(たつみ)門からお出になりましたが、公務での表情とは打って変わり、居並ぶ報道陣には一切、視線を向けられることはなかった。まるで〝あなた方が姉を追い詰めたのです〟とでも言いたげに、車中では憮然(ぶぜん)となさっていました」(『週刊新潮』1月20日号)などと書かれている。

 反論する機会が限られる皇族に対するこうした報道には言いたいことがあるが、今回は措(お)く。とりあえず、佳子さまには「理不尽な批判に負けずに、ご自身を貫いてほしい」と伝えたい。

 Z世代の鑑

 天皇・皇族の発言が制約されるのは、日本国憲法第4条に「天皇は……国政に関する権能を有しない」とあることによる。天皇には、政治に関する権利はなく、力を発揮してはいけない。一般の皇族については何の規定もないが、現実に皇室にある者は、政治発言は遠慮している。

 この規定は、戦前の天皇制が政治・軍事に利用され大きな力を発揮してしまった反省に由来する。一定の時期までは天皇制を封じ込める役割を果たした。しかし、今は逆に、天皇・皇族の人間的なあり方や人権を奪う規定となってしまった。

 憲法の矛盾は、平成の天皇(現在の上皇さま)が退位の自由を求めた意思表明、そして、眞子さんの婚姻の自由の権利の行使で、明確になった。

 天皇・皇族も意見や個性を持った人間である。言いたいこと、やりたいことがある。多様性や自由が大幅に認められる現代社会において、皇室だけがそれを制限される現状は見直される必要があるはずだ。

 佳子さまをはじめとする皇室の新しい世代は、その初々しい感覚で、声を上げてほしい。いま、何を考え、何を問題だと思っているのか。世の中に訴えたいことは何なのか。発信することで、社会との相互コミュニケーションが深まっていくはずだ。

 第二次世界大戦の最中、女性皇族たちは病院訪問などを積極的にこなし、女性の社会進出の牽引(けんいん)役となった。戦後期、美智子さまは新しい家庭のあり方を実践し、平成の世に登場した雅子さまは雇用機会均等法世代のキャリアウーマンであった。その活躍、そして挫折や苦悩は女性たちの鑑(かがみ)である。

 生まれたときからスマホなどのデジタル機器に囲まれ、新しい感覚を持つ現在の20代を、Z世代と呼ぶことがある。

 Z世代の感覚を生かした佳子さまの鋭い観察と意見は同世代の鑑になるだろう。その発信が、皇室を変え、社会を変えることを期待したい。

もり・ようへい

 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮社)、『近代皇室の社会史―側室・育児・恋愛』(吉川弘文館)など

「サンデー毎日2月6日増大号」表紙
「サンデー毎日2月6日増大号」表紙

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