ネットだから売れた本と、ネットでは売らない本 書店に替わる「出会いの場」はあるのか?=永江朗
本との「偶然の出会い」はどこに=永江朗
取次最大手の日本出版販売が2021年11月に発表した「出版物販売額の実態2021」によると、出版物販売額の4割強をインターネット経由が占め、実店舗の書店経由は6割弱にまで縮小している。
ネット販売の拡大が、俗に「ひとり出版社」とも呼ばれる小出版社の経営を後押ししている面もある。実際、「うちの本を一番売ってくれるのはアマゾン」という出版社の声もよく聞く。21年10月創刊の『AMARCマガジン』(HRM)は、著名スタイリストの大草直子が編集長を務める雑誌。ウェブメディア「AMARC」から派生した紙の媒体だ。ファッションや美容、旅などの記事を掲載する。当初、販売ルートはアマゾンと代官山蔦屋書店(東京・渋谷区)だけだった(後に蔦屋書店と紀伊國屋書店のそれぞれ数店舗に拡大)。取次や書店に頼らずとも紙の雑誌を作れる時代になったことを実感する。
一方で、ネット販売のシェア拡大によって、書店空間における偶然の出会いが失われることを危惧する声も少なくない。ネット販売は「すでにその存在を知っている本」を検索して探すのには効率的だが、「その存在を知らなかった本」に偶然出会う可能性は低くなる。
『AMARCマガジン』創刊の1カ月ほど前、『モノノメ』(PLANETS/第二次惑星開発委員会)という総合批評誌が創刊された。編集責任者は批評家の宇野常寛氏。『AMARCマガジン』とは対照的に、こちらは「アマゾンで売らない雑誌」である。
宇野氏はアニメなどサブカルチャーを論じてきた若手批評家。ネットと親和性が高いイメージがある。『モノノメ』も、もしアマゾンで扱えばかなり売れただろう。それでもあえて自社サイトと信頼関係のある書店や施設のみの販売に限定したのは、熟慮や熟議を阻む今のインターネットに対する違和感があるからだ。
もっとも、書店のない地域も少なくない。取次大手のトーハンが17年に行った調査では、全国の自治体・行政区の2割強が書店ゼロだった。その後も書店は減り続けている。身近に書店がなければネットに頼るしかない。書店に替わる「偶然、本と出会う場」が求められている。
この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。