「バイデン政策はファシズム」。米保守派論客の最新刊が好調=冷泉彰彦
アメリカ 「元祖」保守派の思考回路=冷泉彰彦
グレン・ベックといえば、全米でも代表的な保守論客である。現在は「ブレイズ(炎の)メディア」という媒体のオーナーとなり、ウェブサイト、ポッドキャスト、ラジオ、テレビなどで論陣を張っている。
そのベックの最新作『グレート・リセット ジョー・バイデンと21世紀型ファシズムの勃興』は1月18日に発売されると、アマゾンの「最も売れた本、ノンフィクション部門」で1位となっている。
内容だが、保守派のイデオロギーを一方的に述べた書であり、分断をあおるだけの本とも言える。けれども、2024年の大統領選の前哨戦と位置付けられる今年11月の中間選挙では共和党の優勢が伝えられ、本書のような主張が広範な支持を得ているのは無視できない事実でもある。
その意味からすると、21世紀のアメリカにおける保守派の思考回路を分析する材料としては興味深いとも言える。ベックの言う「グレート・リセット」というのは、アメリカのリベラルがダボス会議やEU(欧州連合)などと「共謀している」アメリカ転覆の計画のことらしい。例えば、温暖化理論による化石燃料使用禁止はアメリカの資本主義を破壊する工作であるし、新型コロナウイルス対策におけるマスクやワクチンの強制は、人間の身体に対する暴力だという。また、人権への配慮は一方的な思想統制であり、シリコンバレーはその技術力で世界支配をもくろんでいると述べる。
バイデン政権はその片棒を担いでいるというのだ。そして、思想を押し付けているという被害妄想から、その環境や人権に配慮した政策のことを「21世紀型ファシズム」と命名して、これに抵抗を呼びかけている。
荒唐無稽(むけい)と言えばそれまでだが、コロナ禍で感染対策に反発したり、経済の先行きに不安を感じる層、有色人種の権利主張に反発する白人層などは、この種のイデオロギーに吸い寄せられているのは事実だ。ベックの場合は、自分はトランプよりも以前から保守ポピュリズムの「元祖」だという自負があり、大きな固定ファン層も擁している。中間選挙へ向けてベックの言論が人気になることは、バイデン政権にとって警戒を怠ってはならない現象と言えそうだ。
(冷泉彰彦・在米作家)
この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。