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法務・税務 税理士・会計士

監査のプロなら粉飾を見破れ=細野祐二

会計士 監査のプロなら粉飾を見破れ=細野祐二

私に言わせば、今の監査法人は監査なんてしていない。決算書類、有価証券報告書を監査先から出される資料をもとに作成するだけ。粉飾決算が発覚するたびに規制が強化され、さらに環境や人権問題に関する非財務情報の開示項目が増え、本質的な監査業務はできる環境にはないが、それでよしとしてしまっている状況に元公認会計士として強い危機感を覚える。(税理士・会計士 特集はこちら)

 近年、発覚する架空売り上げや循環取引に関して、監査法人は「会社側が監査人の手口を知って、だまそうとしている」と、被害者然としたコメントを目にしてがくぜんとした。

 プロがそれを言ったらおしまいだろう。お前たちは監査のプロではないのか。高い報酬に見合う仕事をしていると胸を張って言えるのか。どんな巧妙な粉飾であろうと、資本市場の品質管理の番人として、見破ろうという気概をまったく感じない。

 そう思うのは、発覚したいくつかの架空売り上げや循環取引は、見破ることができるからだ。

 たとえば、A社の売掛金が本当に存在するかどうか取引先B社に確認をしたら、A社がB社の本社所在地の銀行支店からB社になりすまし振り込み、A社の売掛金は問題ないと見せかけたという。だから、架空売り上げとは気づかなかった、と。そんなはずがない。担当の監査法人自身が、直接B社にA社の売掛金を確認すれば、わかることだ。監査の基本を怠っているだけ。

 しかも、粉飾が発覚すれば、過去の期にさかのぼって改めて監査をやり直すことになり、別途高額な報酬を得る。粉飾を見逃したうえに、それに伴う再監査によって別途報酬を得るというのは、一般市民の感覚とは乖離(かいり)している。ミスした当事者が、それをきっかけにさらに特別ボーナスをもらえるなんて、誰が納得するだろうか。

「うそ=恥」の文化が支え

 私が開発した不正会計をみつけるソフト「フロードシューター(エクセル簡易版は無料公開)」にかければ、近年発覚した架空売り上げや循環取引を簡潔かつ秒速単位で発見できる。詳細を説明する紙幅はないが、(1)現金の裏付けのある利益かどうかを見極める「会計利益先行率(当期純利益÷フリーキャッシュフロー)」が前期と比較して大きく上昇(現金の裏付けのない売り上げ増)、(2)売掛債権の回転率(回収期間)の悪化、(3)買掛金回転率(支払期間)の低下もしくは、横ばい(売り上げが架空なため、原材料など買掛債権は増えない)という3条件が該当すれば、粉飾を疑うべき。

 フロードシューターを使えば、粉飾は発見できる。その疑わしい企業を担当会計士は、しっかり監査すればいい。

 私は、毎年東証1部全銘柄をセクターごとにフロードシューターにかけている。すると、平均で5%不正が疑われる。逆に言えば、95%はきちんとしている。これは欧米主要国と比べれば、すごく良い数字だ。日本の有価証券報告書の信頼性は、うそを恥とする日本人の国民性に支えられているだけのことで、監査法人の監査が機能しているわけではない。

 不確定な利益は取り込まない一方で、予想されるリスクは取り入れるという先人の英知がつまった複式簿記をフルに活用すれば、真に持続可能な企業の養成になる。公認会計士は、それを支える重要な人材であることを今一度、肝に銘じてほしい。(談)

(細野祐二・会計評論家)


 ■人物略歴

ほその・ゆうじ

 1953年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。82年3月、公認会計士登録。78年からKPMG日本およびロンドンで会計監査とコンサルタント業務に従事。2004年3月、キャッツ有価証券報告書虚偽記載事件で逮捕・起訴。10年、最高裁で上告棄却。懲役2年、執行猶予4年の刑が確定。公認会計士登録抹消。著書に『公認会計士vs特捜検察』『法廷会計学vs粉飾決算』など。

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