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大手監査法人撤退の受け皿 中小監査法人の質向上が課題に=編集部

中小の基盤強化が協会の課題
中小の基盤強化が協会の課題

会計士 監査法人異動の受け皿 準大手・中小の質確保へ=編集部

「ビッグ4」と呼ばれる大手監査法人から監査先が流出するのは近年の基調だが、受け皿となっているのが、おおむね準大手や中小監査法人である。準大手とは、仰星、PwC京都、三優、太陽、東陽の5監査法人を、中小監査法人はそれ以外を指す。(税理士・会計士 特集はこちら)

半年で173社が異動

 帝国データバンクによると、2021年1〜6月には上場企業173社が監査法人の変更を発表した。監査法人の変更は通常、定時株主総会日とする。3月期決算・6月の株主総会が多い日本にあっては、1〜6月のデータでトレンドが分かる。

 退任の上位には、1位EY新日本(51社)、2位トーマツ(46社)、3位あずさ(18社)、5位PwCあらた(7社)と、ビッグ4が並ぶ(表1)。4位の元和は21年6月に解散した。

 一方で、受け皿となる「就任」では、準大手の太陽が最多の20社、あずさ(8社)、EY新日本(6社)と大手2社も一部の受け皿にはなっているものの中小も名前を連ねている(表2)。

 監査法人の規模別でみると、「大手→中小への変更」が42・2%と最多で、「大手→準大手への変更」が18・5%となっている(表3)。変更の理由は「事業規模や監査法人との取引関係に即した監査対応」が80%、「今後の会計監査が困難」が8%だが、これは表向きの理由と考えるのが妥当だろう。

 近年、会計が複雑化し、不適切・不正会計の落とし穴がどこにあるか分からない。そのため、大手監査法人はIT投資に積極的だ。監査の手間やIT投資を監査報酬に上乗せしたい大手が、クライアントに監査報酬アップを求めて紛糾するのは珍しくない。

 監査法人の異動状況調査を担当した帝国データバンク情報取材課の相川泰輝記者は「大手監査法人がクライアントから品質に見合う監査報酬を得られない場合、監査を断っているというのが実情ではないか」と語る。

不適切な会計も一因

 不適切会計判明も監査法人変更の大きな理由だ。

 情報通信システム「サクサホールディングス(HD)」はグループで不適切会計が発覚し、20年に「過年度決算に関する訂正報告書」を出した。不適切会計を行っていた当時の監査法人はEY新日本だったが、21年度から中小監査法人に切り替えた。

 サクサHDは、変更理由について「EY新日本側から、必要な監査リソースが確保できないことを理由に21年6月の株主総会で退任したい旨の申し出があった」と説明している。

 上場企業の会計監査の裾野が大手・準大手から、中小にまで広がっていることで、監査の質の確保が課題となっていた。

 そこで、金融庁の金融審議会・公認会計士制度部会は、中小監査法人による監査の質確保をはかる方策を審議。今年1月の報告書では、(1)上場企業の会計監査を行う監査法人は5人以上の公認会計士が所属することを要件として、法定の名簿に登録することを求め、登録事務は日本公認会計士協会が行う、(2)上場企業の監査を担う監査法人などは「監査法人版ガバナンス・コード」を受け入れ、一定の規律の下、上場企業の監査の体制整備や情報開示を行うことを提言した。

 (1)の上場企業の監査を担う監査法人の下限人数については、多くの公認会計士には影響がない。というのは、現行でも、監査法人は存続に5人以上の公認会計士が必要だからだ。ただ現在は、上場企業の監査を個人の公認会計士が他の個人事務所や中小監査法人と共同で実施することがあり、このようなケースで今後、「上場企業の監査ができなくなる」と懸念する声があった。

 日本公認会計士協会によると、登録が法制化された後も激変緩和措置として、個人の公認会計士による上場企業の監査はできるという(監査には最低2人の公認会計士が必要)。

 協会では、「大手からの受け皿になっている準大手や中小の監査法人の基盤強化に向けて支援していく」とし、個人を含め再編・淘汰(とうた)が始まるとみている。

最低人数の見直し

 また、中小監査法人にとっての問題は今後、公認会計士最低「5人」という人数を増やそうという動きがあることだ。関係者によると、行政側には「人員が確保できていない監査法人のクライアントが会計処理で問題を起こす」という不信感が根強く、「7人」や「20人」への引き上げを求める意見もあったという。今回の制度改正では、激変緩和措置として、現状の監査法人の最少人数である「5人」から上場企業の監査を認めたともいえる。しかし、報告書では最少人数を「見直すことが考えられる」と明記している。

 (2)について、監査法人版ガバナンス・コードは「経営機関の監督・評価機関の設置」などを求めている。ビッグ4や準大手ならばともかく、最低人員の公認会計士5人の監査法人にはかなり厳しい内容だ。この点についても、「準大手や中小が導入しやすいようにコードの中身を変えるなどして、適用を促していく」(協会)という。

 都内で中小監査法人に勤める公認会計士は「今回は上場企業の監査要件が『5人以上』になったので影響はないが、今後『7人』や『20人』が必要になれば、業界で再編が起きるかもしれない。不安とチャンスが入り交じる複雑な心境」と打ち明ける。

(編集部)

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