こんな税理士は捨てられる 中小企業オーナーが語った「我が社が税理士を変えて成功した」具体事例=編集部
税理士 税務+経理+付加価値が「顧問」には求められる=種市房子/加藤結花/浜條元保
<これから勝てる 税理士・会計士>
縮小する国内市場、デジタル化、コロナ対応。変化の絶えないビジネス界で選ばれる税理士・会計士に求められるものとは。
(種市房子/加藤結花/浜條元保=編集部)
今年も3月の年度末を控え、中小企業の多くが顧問税理士と二人三脚で決算書類作成や確定申告準備に当たっていることだろう。(税理士・会計士 特集はこちら)
その顧問税理士を代えただけで、経営が劇的に改善した具体例があった。
関東地方で自動車販売・整備会社を営む50代の男性社長は5年前に顧問税理士を代えた。きっかけは、資金繰り危機の表面化だった。
税理士交代で経営改善
9年前に新たな販売店を開設。その際、店舗や在庫の車を調達するため銀行から長期で資金を借り入れた。新店舗オープンにより販売台数が伸び、月次売上高も増えた。それにもかかわらず、支払い超過が続く。月々400万円の売り上げがあるのに、銀行への返済が900万円に上ったのだ。
当時の顧問税理士とは先代社長からの付き合いで契約を続けており、顧問料は年間約80万円。月初に前月の経理書類を受け取りにきて、20日ごろに月次の現金や借り入れなどの額を並べて計算した「試算表」を持ってくる。これを毎月繰り返した。月次の財務に対して助言・指摘することなく、「単なる経理書類の作成担当者」だった。
資金繰り危機が表面化した後、社長はコンサルタントの勧めもあって顧問税理士を代えた。新たな顧問税理士は、月次の試算表、貸借対照表、キャッシュフロー(現金収支)表、部門別粗利益推移表を提供してきた。社長は、現金の実際の流れが細やかに追えるキャッシュフロー計算表によって、銀行借り入れの負担が重いことを理解した。その後、銀行と交渉して長期借り入れを短期に切り替え、月々の返済額を大幅圧縮した。
新たな税理士は、月次の経営数値に変化があると能動的に質問をし、善しあしの判断を述べて、悪い場合は対策も提案してくれた。
この会社は税理士を代えて2年ほどで累積赤字を一掃した。ちなみに、顧問料は旧顧問税理士と同額だ。社長は「正直に言えばあまり期待していなかったが、税理士を代えただけで、これだけ経営が改善できるのかと驚いた」と語る。
2022年1月末現在で、税理士登録をしているのは約8万人。その働き方は多様で、個人で運営できる「税理士事務所」「会計事務所」▽2人以上の税理士で設立する「税理士法人」▽企業内で税理士資格を持って働くなど、スタイルはさまざまだ。
税理士事務所や会計事務所、中小税理士法人の主な顧問先は中小企業や資産家で、主に経理業務の支援や税務申告の代行・書類作成を担う。多くの場合、顧問税理士をほとんど変更していないようだ。船井総合研究所が20年に会員の中小企業に対してアンケートで、「現会計・税理士事務所・税理士法人との契約期間」を尋ねたところ、回答企業の48%が「10年以上」と回答した。全体の62%が現事務所に「満足している」「どちらかというと満足している」と回答してはいる。
ただし、現顧問事務所への要望・不満を書く自由回答欄では「メールやチャットへの返信が遅い」「クラウド会計に対応してほしい」「能動的に質問してくれない」「経営改善や資金調達の提案がない」と手厳しい言葉が並ぶ。
アンケートからは、顧問税理士交代への潜在需要があることがうかがえる。ネットには安値をPRする税理士事務所の広告があふれ、税理士を仲介するコンサルタントも登場する中、従来型の「税務・経理のみ」の税理士の立場は危うい。
では、選ばれる税理士とはどのような要素が必要なのだろうか。辻・本郷税理士法人の徳田孝司理事長が語る成長戦略が示唆に富む。「業務提携先の金融機関や司法書士、弁護士らと連携し、中小企業経営者らに対して経営戦略や人事・労務の助言など幅広いサービスを提案していきたい」(徳田理事長)。
税理士法人山田&パートナーズの浅川典子代表社員のコメントも大きなヒントになる。浅川氏は「税務と関係ないことは知りませんという態度であってはいけない」として、脱炭素関連ビジネス構想を明らかにした。
税務・経理以外の知識・提携先を持ち、ワンストップで顧問先の悩み相談に乗る──。これから勝てる税理士には、不断の学び直しと人脈・提携先網構築、ビジネス感覚が求められる。