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経済・企業 注目の特集

プライム上場“経過措置”銘柄が、実は投資材料になっている理由=編集部

296社の「計画書」に投資機会 ゆうちょ銀、デサントは2割上昇=稲留正英/和田肇

 「きちんとした計画書を市場が評価し、株価が上昇した銘柄があった。株式市場が価格形成機能を発揮したという点では、東証再編は良いきっかけになった」(マネックス証券の広木隆・チーフ・ストラテジスト)──。東京株式市場では、企業の策定した「適合計画書」に注目する動きが強まっている。(東証再編で上がる株・下がる株 特集はこちら)

 適合計画書とは4月4日からの東証の「プライム」「スタンダード」「グロース」3市場への再編に伴い、各市場の上場維持基準に未適合の企業が、将来、基準を満たすために東証に提出した計画書を示す。正式には「上場維持基準への適合に向けた計画書」という。

 新市場への移行基準日である昨年6月末の流通株式時価総額、流通株式比率などが基準となり、東証は今年1月11日に東証上場全3777社の移行先市場を発表した。「海外の機関投資家の投資に耐えうる株式の流動性やコーポレートガバナンス(企業統治)」がコンセプトのプライム市場には、東証1部2185社のうち、1841社が移行することになった。

 このうち296社は、流通株式時価総額、流通株式比率、売買代金でプライム市場の基準を満たしていない。だが、東証は適合計画書を提出すれば、プライム市場に移行できる救済措置を設けており、全296社がこの措置を利用した。同様に、スタンダード市場では、移行する1477社のうち212社が、グロース市場では459社のうち46社と市場全体では554社が救済措置を活用した。

明和産業は2・3倍に

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 市場では、「2200社に水膨れした東証1部に厳しい上場基準を適用し、日本の株式市場を活性化するのが再編の趣旨だったのに、大半がプライムに移行するのでは意味がない」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾・チーフ株式ストラテジスト)などと手厳しい声が多い。しかし、一方で、個人投資家にとっては、適合計画書を精査すれば、「お宝銘柄」を発掘するチャンスになりうるとの指摘が出ている。

 表1は、計画書を提出したプライム移行企業296社について、移行基準日の昨年6月末と今年1月25日の株価を比較し、騰落率の上位20銘柄を並べたものだ。トップは明和産業の2・3倍の上昇。それ以外も軒並み2割以上の上昇だ。この期間、東証株価指数(TOPIX)が2・4%下落しており、市場平均を大きく上回るリターンとなっている。296社全体では、全体の約3割の85社が上昇している。

 明和産業は、レアアース、リチウムイオン電池の正極材、セパレーターなどを手掛けている。昨年8月末に増配や業績の上方修正を発表したのが株価上昇の直接的な要因だが、電気自動車(EV)関連としてのテーマ性もある。計画書でも、「自動車事業の持続的な成長」や「リチウムイオンビジネスの事業拡大」を主な取り組みに掲げている。

 2位のドリームインキュベータは大企業向けの戦略コンサルとベンチャー投資が事業の柱だが、投資先のペット保険会社がペットブームで収益を拡大。適合計画書ではベンチャー投資の厳選・縮小で、収益のブレを抑制すると公表したことが好感されているようだ。

OKKは日本電産傘下

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 これらの20銘柄に共通するのは、カバーする証券アナリストが0人か1人のため個別のアナリストリポートが存在しないことだ。東証1部上場として自動的にTOPIXの構成銘柄となり、指数に連動した成果を目指すインデックスファンドの投資対象にもなっていたが、機関投資家が個別に投資する銘柄ではなかった。

 しかし、東証の再編を機に適合計画書が策定され、企業価値向上に向けた数値目標を含む具体的な方針が示された。計画書の内容を見ても、脱炭素、DX(デジタルトランスフォーメーション)、ヘルスケアなど今の時流に沿った銘柄が多く、個別に吟味すれば投資家が企業の成長のイメージを描きやすくもなっている。

 一方、東証1部からスタンダードを選んだ企業では、344社のうち100社で株価が上昇している。表2では、騰落率の上位20銘柄を掲載した。1位はOKKで154%上昇した。同社は不適切会計を契機に経営危機に陥ったところに、日本電産が昨年11月に買収に動いた。日本電産の出資比率は66%を超え、プライム基準に満たないため、スタンダード市場を選んだ。

 2位のERIホールディングス(HD)は、昨年12月に22年5月期の業績と配当の大幅上方修正を発表。3位の乾汽船も年間配当を従来予想の132円から157円へ増やすと発表したことが好感されている。市場では「プライム移行に伴う財務や人的なコスト増を考慮して、身の丈のスタンダード市場を選択した企業を評価したい」(みずほ証券の菊地正俊・チーフ株式ストラテジスト)との声も根強い。

ZHDは自社株取得

 時価総額が大きいのに、基準日時点でプライム基準を満たしていない企業の中では、ゆうちょ銀行、デサントの株価がそれぞれ19%、22%上昇した(図)。ゆうちょ銀行は流通株式比率が8・8%とプライム基準(35%)を大幅に下回っていたが、その解消のために7・5億株の金庫株を消却し、流通株式比率が10・6%に上昇したことが材料視されている。適合計画書では、26年3月末までに、流通株式比率の適合を目指す。

 デサントも基準日時点の流通株式比率は34・8%。持ち合い株の圧縮を進めたことで、昨年9月末では流通株式比率は36%とプライム基準を満たしたが、計画書では非財務情報の開示を強化し、個人投資家への情報発信にも注力することを明記した。同社は今年2月の北京冬季五輪で日本選手団の公式ユニフォームも提供しており、「五輪関連としても買われている」(auカブコム証券の河合達憲・チーフストラテジスト)。

 時価総額がトップのZHDは、昨年3月のLINEとの経営統合により、AHDが同社の株式の64・7%を取得したため、流通株式比率が33・9%と基準を下回っている。そこで、同社ではAHDから株式公開買い付け(TOB)で自社株を取得し、その株式に相当する新株予約権をBofA証券に発行。株価の上昇に伴って予約権を行使することで、23年度までに上場基準を満たす計画書を策定した。短期的な株式需給の悪化懸念が薄れ、株価は1%上昇している。

 今回の東証再編は、市場の期待より変革のスピードは遅い。しかし、企業価値向上への方策が投資家にきちんと説明され、投資家の側もそれを適切に評価する、大きなきっかけとなったことは間違いない。

(稲留正英・編集部)

(和田肇・編集部)

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