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経済・企業 東証再編で上がる株・下がる株 

東証再編も後押し! 過去最高を更新するM&A件数=吉富優子

M&A 過去最高を更新する件数 日立などグループ再編加速=吉富優子

 東京証券取引所が今年4月に、プライム、スタンダード、グロースの3市場に再編される。昨年6月のコーポレートガバナンス・コードの改定と合わせ、最上位のプライム市場では大株主の持ち分比率の引き下げや英文の情報開示、社外取締役の充実が求められる。グローバルな機関投資家、少数株主との対話を念頭に、特にプライム市場に移行する東証1部企業には、「稼ぐ力」の向上を強く意識した経営が要求されており、それが、「M&A(企業の合併・買収)を通じた企業変革」を加速させている。(東証再編で上がる株・下がる株 特集はこちら)

 こうした流れを背景に、2021年の日本企業のM&Aは前年比14・7%増の4280件と、これまで最多だった19年の4088件を上回り、2年ぶりに過去最高を更新した(図)。新型コロナウイルスの感染拡大や世界的な脱炭素の流れも後押しし、事業構造改革やスタートアップと組んだ新規事業創出への取り組みが活発化した。

 金額も11・7%増の16兆4844億円と高水準だった。うち、クロスボーダー(外国企業とのM&A)案件が全体の金額の8割超を占めた。大手を中心に事業ポートフォリオの組み替えの動きがグローバルベースで進んでおり、「売り」は外国企業が受け皿となるケースが増えている。

 以下、具体的な事例を見ていきたい。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は昨年9月、米MUFGユニオンバンクを米USバンコープに売却(1兆9349億円)することで合意した。引き続き米国市場をグループの重要市場と位置付け、米モルガン・スタンレーとの提携などを通じた法人取引や投資銀行業務に経営資源を集中する。

脱炭素関連も活発化

 また、日立製作所は、デジタルエンジニアリングサービスの米グローバルロジックに対して初の1兆円規模の買収を実施する一方、上場子会社の日立金属を米投資ファンドのベインキャピタルを軸とするコンソーシアムに売却することで合意した。日立製作所は今年に入り、日立建機の一部持ち分売却も発表した。

 資生堂は、シャンプーや洗顔材などのパーソナルケア事業を英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズに売却。また、化粧品3ブランドも米投資ファンドに売却し、高付加価値のスキンケア領域に注力する方針だ。

 大企業とベンチャー企業の連携強化の動きも活発だ。トヨタ自動車は、子会社のウーブン・プラネット・ホールディングス(HD、東京)を通じて、米配車サービスベンチャーのリフトから自動運転部門「Level5」を譲り受けた。リフトのシステムと車両データを活用し、ウーブン・プラネットの開発する自動運転技術の安全性と商用化に向けた協業も行う。

 凸版印刷もフィンテックなどさまざまな事業ベンチャーに投資している。凸版印刷のベンチャー投資の始まりは20年前にさかのぼる。出版市場の縮小、電子書籍の普及、出版流通制度の変化など激変する経営環境を背景に、ベンチャー企業への共創投資の展開等を通じて、従来の受注型産業から脱却し、社会的課題解決ソリューションを提供するDX(デジタルトランスフォーメーション)事業のリーディングカンパニーとなるべく、企業変革を加速させる。

 脱炭素関連のM&Aも活発化してきた。ENEOSHDは、石油・天然ガス開発事業を資源開発の英ネオ・エネルギーに売却する一方で、再生可能エネルギー新興企業のジャパン・リニューアブル・エナジー(東京)を2000億円で買収した。東京電力HDの傘下の東京電力フュエル&パワー(同)と中部電力の折半出資会社のJERA(同)は、米フリーポートLNGプロジェクトに出資参画(2851億円)し、新規LNG事業を進める。

親子上場解消もテーマ

 他方、上場企業が絡む経営統合や事業統合などの国内再編(IN−IN)は停滞ぎみだ。20年はNTTによるNTTドコモの完全子会社化(4兆2578億円)が注目されたが、21年の大型再編では前田建設工業、前田道路、前田製作所の経営統合(1967億円)が最大だった。

 4月からの東証の市場再編では親子上場の解消も大きなテーマだ。ENEOSによるNIPPOや、凸版印刷によるトッパン・フォームズのTOB(株式公開買い付け)など、グループ経営の見直しの動きが進む(表)。MBO(マネジメント・バイアウト、経営陣による買収)を通じた非上場化案件も増加しており、自ら市場退場を選択する企業が増えている。さらに敵対的TOBに踏み切る企業も増えてきた。SBIHDは、傘下のSBI地銀HD(東京)を通じて、新生銀行に対してTOBを実施し、連結子会社化した。新生銀行はSBIのもとで再出発する。

 上場企業による自己株取得の動きも活発だ。コーエーテクモHDやZHDはプライム市場での上場を目指し、それぞれ大株主から自己株式を取得し、流通株式比率を高めた。

 東証は1月11日、プライム市場には1841社が上場すると発表した。新基準に対応する上での課題の一つは、基準が大きく引き上げられる流通株式数である。大株主のいる企業では、コーエーテクモHDやZHDのように大株主から自己株式を買い取るという即効的な対策も考えられるが、多額の資金が必要となる。こうした事態を避けるため、自己株式を活用したM&Aが考えられる。自己株式の活用によって、資金の社外流出を回避しつつ流通株式数を増加させるという戦略を選択する企業が増える可能性がある。

(吉富優子・レコフデータ代表取締役)

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