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年間12万件の相続税申告があるのに収益化できない税理士がいる厳しい事情=編集部
税理士 相続税申告報酬は二極化 中小は専門の大手にお任せ=編集部
高齢化が進む日本では今後、大相続時代を迎える。国税庁によると、相続税申告のうち毎年85%程度については申告書類作成など何らかの形で税理士が関与している。ただ、相続税申告に関する報酬は二極化しているようだ。(税理士・会計士 特集はこちら)
大手税理士法人では、富裕層やオーナー企業も顧客に抱え、毎年、所得税や法人税の申告書類作成にかかわる。この顧客に相続が発生すれば、相続税申告書類を作成する。相続財産が数千万円単位ならば50万〜60万円の報酬を得て、臨時収入となる。顧客がオーナー企業の場合、相続と事業承継がセットになるケースもあり、この場合は、報酬は数百万円が相場のようだ。
以上のケースは、「顧客と顧問税理士」という確固たる信頼関係があるため、税理士側もコストや利益を適切に積み上げた報酬を請求できる。
ただ、相続税申告の知見に乏しい税理士もいる。国税庁によると2020年分の相続税申告は約12万件だった。これを税理士の人数約7・9万人(当時)で単純計算すると、年間1人当たり1・5件しか相続税申告に関与しないことになる。しかも、冒頭のように税理士がかかわる相続税申告は、全体の85%。誰もが相続税申告の経験を積めるわけではなく、勘所を押さえられない税理士も相当数いる。
この点に活路を見いだすのは、相続税申告の知見を持つ大手税理士法人だ。中小の税理士法人や会計事務所と提携し、これら中小事務所の顧問先のオーナーや富裕層で相続が発生した場合に、相続税申告案件の紹介を受ける。事業承継や不動産処分などもセットにして、相続税申告や助言を行うことが多い。中小税理士法人や会計事務所は法人税や所得税、提携先の大手税理士法人は相続税と、すみ分けができる仕組みだ。
税理士法人タクトコンサルティングはその先駆けとされ、全国の会計事務所と提携している。提携先は司法書士事務所なども加えると550超に上る。辻・本郷税理士法人も、提携先の司法書士や地方の税理士、金融機関から相続案件が持ち込まれている。
このほか、相続税申告を得意とする税理士法人は数多い。税理士法人レガシィ、税理士法人チェスター、ベンチャーサポート相続税理士法人などは年間1000件超の申告実績件数を公表している。ただし、あくまでも件数であり、個別案件の複雑さや申告額にばらつきがあり、単純比較は避けるべきだ。
ネット広告で価格破壊
一方、ネット広告で「最安値」などをうたい、基本料金で10万円を切る税理士も出現している。しかし、自宅と預貯金を合わせ数千万円の相続財産ならば「報酬50万円はもらわないと、まともな申告書はできない」(東京都内の税理士)というのが、税理士の本音だろう。
大相続時代には、顧問税理士を持たなかった会社員が、相続時に人生で初めて税理士を選ぶことになるケースも多く、価格が重視されることになりそうだ。有望な顧問先の少ない税理士には、価格競争が待ち受ける。
(編集部)