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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

日本海溝・千島海溝地震が起きれば、沿岸を20メートル級の大津波が襲う=鎌田浩毅

日本海溝・千島海溝地震/1 沿岸を大津波が襲うM9想定/88

 内閣府が昨年12月、日本海溝と千島海溝沿いの太平洋で起きる巨大地震の被害想定をまとめた。いずれも非常に大きな災害が予想されるので、4回に分けて解説しよう。

 具体的には、岩手県沖から北海道日高沖合の日本海溝沿いにある震源域と、襟裳岬から千島海溝沿いの震源域の二つで発生する地震予測である。地震の規模を表すマグニチュード(M)では前者がM9・1、また後者はM9・3が想定された(図)。これは、2011年の東日本大震災を引き起こしたM9・0や、30年代に起きる可能性の高い南海トラフ巨大地震のM9・1を上回る。

 ちなみに、昨年10月に東京で震度5強を観測した地震はM5・9なので、M9とはその3万倍以上のエネルギーに相当する。日本列島の北方に再び超巨大地震が襲来すると言っても過言ではない。

 海底で地震が起きるメカニズムは、東日本大震災と全く同じである。日本海溝と千島海溝は、太平洋プレートが日本列島を乗せた北米プレートの下に沈み込む場所にある。こうした2枚のプレートの境界面が一気にずれるとM9クラスの巨大地震が起き、同時に隆起した海底に沿って最大で30メートル近い大津波が発生する。

400年が経過

 なお、プレートが沈み込む速度は年に10センチほどで、南海トラフ巨大地震を引き起こすフィリピン海プレートが年に4センチほどなのに比べると倍以上も速い。さらに、日本海溝と千島海溝では二つのプレート境界面が接合しやすい性質があるため、地震の起こる頻度が高くなっている。政府の地震調査委員会は17年、千島海溝沿いを震源とするM8・8以上の地震が30年以内に起きる確率を「最大40%」と見積もった。

 日本海溝と千島海溝沿いで発生した過去の巨大地震は、海岸近くで見つかる津波堆積(たいせき)物の地質調査から明らかにされてきた。過去6500年間に発生した18回ほどの巨大地震では同時に大津波が発生した。

 また、津波の残した堆積物の調査結果から、北海道から岩手県の太平洋沿岸では300~400年ごとに大津波が襲っていたことが分かってきた。前回の巨大地震は慶長三陸地震(1611年)である。そして、最新の活動時期から約400年が経過していることから、地震調査委員会は日本海溝と千島海溝沿いで最大クラスの津波の発生が迫っていると警戒を促している。

 内閣府はまた、満潮時などの条件下で沿岸部の津波高を推計したところ、岩手県宮古市では最大29・7メートル、北海道えりも町で最大27・9メートル、また青森県八戸市で25メートルを超える津波が来ると予想している。すなわち、宮古市以北の多くの場所で東日本大震災より高い20メートル級の津波が襲ってくる可能性がある。

 次回は日本海溝と千島海溝沿いの巨大地震と津波がもたらす具体的な災害について見ていこう。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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