日本海溝・千島海溝地震が起きれば東日本大震災を超す被害規模に=鎌田浩毅
日本海溝・千島海溝地震/2 東日本大震災を超す被害規模/89
北海道から東北北部の太平洋沖でマグニチュード(M)9クラスの巨大地震が起きると、震度7の強い揺れと最大で30メートル近い大津波が押し寄せる。内閣府が昨年12月にまとめた被害想定では、北海道・襟裳岬の東方沖を震源域とした場合には、厚岸町で震度7、えりも町は震度6強の揺れに襲われる。
特に、冬の深夜の地震発生で津波避難率が20%と低い場合に、最大の被害が想定される。その結果、日本海溝沿いの地震では犠牲者数が19万9000人、また千島海溝沿いの地震では犠牲者数が10万人となる(図)。いずれも最悪の場合は東日本大震災を超えるような被害の大きさで、2030年代に発生が想定される南海トラフ巨大地震と並ぶ激甚災害となりうる。
こうした犠牲者のほとんどは津波によるものとされ、北海道や青森、岩手、宮城、福島、茨城、千葉の7道県で発生する。実際には津波による浸水深が30センチを超えると犠牲者が出るため、人的被害を減らすには早期に避難するしかない。
一方、津波による家屋流失は減らないので、家屋被害を減らすには高台移転などの抜本的対策を促進する必要がある。
インフラも長期途絶
建物とインフラの被災や生産低下による経済的被害の想定では、日本海溝地震は約31兆円、また千島海溝地震では約17兆円に達する。経済的被害の大部分も津波によるもので、沿岸部にある施設と港湾の被害が特に大きい。道路・鉄道・通信などのインフラと電気・水道・ガスなどのライフラインの長期にわたる途絶が予想される。
建物被害では、強震動・津波・火災などによる全壊棟数が、日本海溝地震で最大22万棟、千島海溝地震で最大8万4000棟となる。特に冬は積雪荷重で強震動による全壊率が高くなり、さらに夕方は出火率が上がるため火災による全壊が増える。一方、耐震化率が向上すれば、全壊する建物の数を日本海溝地震では1000棟、千島海溝地震で4000棟は減らすことができる。
こうした経済的被害も事業継続計画(BCP)の実効性を高めることで、日本海溝と千島海溝の地震に対して、それぞれ1割減と2割減が見込める。最新の地震学でも、いつどこで地震が発生するかの短期予知は不可能なため、想定される震災に対して備えを急ぐ必要がある。
なお、今通常国会には日本海溝と千島海溝で発生する地震を対象に地震津波対策を強化する特別措置法改正案が提出される予定と報じられている。次回は、日本海溝と千島海溝で起きる巨大地震によって冬季に生じる特異的な災害とその対策について解説しよう。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。