日本海溝・千島海溝地震/3 早期避難で犠牲者は大幅減/90
内閣府が昨年12月にまとめた日本海溝・千島海溝地震の被害想定で、対象となった地域は寒冷地にある。したがって、冬季の深夜に巨大地震が起きると被害が急増する。北海道から千葉県にかけての太平洋側と秋田、山形を含む9道県に被害が出ると予想されている。
具体的には、積雪地域では吹雪や路面凍結で避難が著しく遅れるため、津波被害が最も大きくなる。さらに、津波とともに流氷が襲ってくる可能性もある。しかも余震が続く中で防寒着を着込み、積雪や凍結した道路での避難を強いられる。
この被害想定では、冬の夕方に津波から早期避難ができなかった場合、発生から1日後の避難者数は日本海溝では90万1000人、また千島海溝では48万7000人に達する。また、極寒地では避難所でも暖が取れなければ、低体温症にかかる人が増える。さらに、本州からの救援部隊は寒冷地仕様の資機材を持たないため、救援に困難を伴う恐れがある。
防寒の工夫も不可欠
冬季以外でも寒冷地では、津波に巻き込まれてぬれたままの被災者が、低体温症で死亡するリスクがある。高台などに難を逃れても屋外にいる時間が長ければ命を落とす恐れがある。こうした低体温症となる要対処者数は、日本海溝と千島海溝の地震それぞれで4万2000人と2万2000人に及ぶとされる。ただ、避難所への避難路と体を温める防寒備品の整備などによって、こうした死亡リスクは大幅に減らせるだろう。
被害が予想される上記の9道県では、自力避難が難しい高齢者の被災者に占める割合が高い。1995年1月に起きた阪神・淡路大震災や、2011年3月の東日本大震災と同じように、寒さで体調を崩すことで避難後の災害関連死の増加につながる恐れがある。
よって、寒冷地の避難では「家から逃げる時」と「避難所に逃げた後」のそれぞれに防寒の工夫が必要となる。また、避難する際の一人ひとりのタイムラインの策定や、高齢者をサポートするシステムづくりが求められている。
東日本大震災後、「想定外」の事態を最小限にするため、南海トラフ巨大地震で防災態勢の見直しが進んでいる。日本海溝・千島海溝沿いの巨大地震でも同様で、早期避難率が100%になれば、津波避難ビル・タワーの整備や建物の耐震化率100%化といった対策と併せ、日本海溝地震で3万人まで、また千島海溝地震で1万9000人まで、それぞれ犠牲者を8割減らせる(図)。
地学的に見ると、日本の国土面積は世界のわずか0・25%だが、世界で発生するマグニチュード(M)6以上の大地震の2割が集中する。加えて、東日本大震災以降の日本列島は1000年ぶりの「大地変動の時代」に突入している。今回の内閣府による地震被害想定を早急に事業継続計画に組み込み、対策を進めてほしい。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。